10年間で日本の働き方はどう変わったのか
要旨:
- 10年間で月間平均残業時間は22時間減少し24時間に、有休消化率は19%向上
- 10年前最も残業時間が長かった20代は、2021年では最も少ない23.5時間
- 有休消化率は20代での向上が著しく、2021年で最も高い63.3%で40-50代と7ポイントの差
- 10年間で最も残業時間が減った業界は「建築、土木、設備工事」で-37.6時間、最も残業時間が少ない業界は「ファッション、アパレル、繊維」で13.5時間
- 10年間で最も有休消化率が向上した業界は「証券会社、投資ファンド、投資関連」で+29.7ポイント、最も有休消化率が高い業界は「通信、ISP、データセンター」で73.2%
誰もがあらゆる場で活躍できる「一億総活躍社会」実現に向けたチャレンジのひとつである働き方改革。2018年に関連法が成立し、2019年から順次施行されました。法改正によって、長時間労働の是正や休暇の取得、同一労働同一賃金による待遇改善が期待されています。
日本の過重労働については長年改善が議論され続けていますが、特に2010年代に入ってからは過労による痛ましいニュースや、「ブラック企業」という言葉が流行語になるなど、労働環境や働き方への意識が大きく変わった10年だったといえるのではないでしょうか。
今回の調査レポートでは、OpenWorkに投稿された、社員による残業時間と有休消化率のデータを集計し、10年間の働き方の変化をまとめました。それぞれの推移を年代別、業界別でも分析し、特徴を見ていきます。
「働き方」は10年間でどう変わったのか
月間平均残業時間も、有休消化率も、2014年以降改善を続けています。10年前の残業時間は40時間を大きく超えていたのに対し、2021年は24時間となり、10年間で22時間減少しました。有休消化率については、10年前は5割にも届かない41%でしたが、2021年では60%と改善されています。
年代別にみる「ホワイト化」の実態
年代別の変化を見て行くと、残業時間においては10年前に最も残業していたのは20代(48.5時間)で、40-50代(40.1時間)と8時間以上の差がありました。年を追うごとにその差は縮まり、2021年では20代が23.5時間で最も少なく、40-50代(24.3時間)と逆転しています。若い世代を中心にワーク・ライフ・バランスを重視する傾向は強くなっており、また昨今ではコロナ禍によるテレワークも普及したことから、自分で業務時間を調整しやすくなったことも影響している可能性があります。
一方、有休消化率では20代と他年代の差が開く結果となりました。10年前は40%程度だった有休消化率が、2021年では20代が63.3%なのに対し、30代が57.4%、40-50代が56.0%と、6割のラインを境に差が開いています。2019年の法改正により、企業は10日以上の有休が付与されている労働者に対し年間5日間の有休を取得させることが義務付けられました。社員クチコミを見ても、義務付けによって有休を取得しやすくなったという声も多く、こういった強制力が若手の休みにくさを多少解消したのかもしれません。
業界別に見る残業時間推移
業界別に残業時間の変化を見て行きましょう。10年間で大きく残業時間が減少したのは「建築、土木、設備工事」「コンサルティング、シンクタンク」「放送、出版、新聞、映像、音響」「広告代理店、PR、SP、デザイン」「不動産関連、住宅」で、いずれも10年前は60時間以上の平均残業時間であったものが、10年で30時間以上減少しています。
2021年の残業時間が最も少なかったのは、「ファッション、アパレル、繊維」の13.5時間で、続いて「旅行、ホテル、旅館、レジャー」の16.1時間、「小売(百貨店・専門・CVS・量販店)」の17.5時間となっています。
建築、土木、設備工事業界
「働き方改革に熱心に取り組んでおり、5年前と比べて風土も変わった。しかし、他産業と比べると残業時間は長く、特に現場ではその傾向が顕著。業界全体で働き手の確保や契約内容の改善をすすめているが、さらなる推進が求められる。(文系、女性、清水建設)」
コンサルティング、シンクタンク業界
働き方改革の影響を受けて、非常に働きやすくなった事はとても良いと感じている。以前は深夜残業が当たり前で残っている人ほど頑張ってて偉いと言った雰囲気がとても強く不満だったが、今は会社を上げて効率的に仕事をしてなるべく残業せずに早く帰るように促す施策等が実施されており、深夜残業については大幅に解消されている。(P&T、男性、アビームコンサルティング)」
広告代理店、PR、SP、デザイン業界
「私が入社した10年前は、いわゆる激務が常態化していたが、昨今の働き方改革によって会社全体としては大きく改善し、ワークライフバランスも取りやすくなった。しかし、一部のチームでは、まだまだ昔のような状態が続いている。これは、得意先のスタンスにもよるため現場努力だけでは完全な解決は難しいと思われる。(営業、男性、博報堂)」
不動産関連、住宅業界
「ここ数年でかなりの変化があり、残業時間管理は年々厳しくなっている。業務効率化の意識は上がってきており、理不尽な残業を強いられるようなことはない。あとは本人次第。(本社スタッフ、男性、野村不動産)」
旅行、ホテル、旅館、レジャー業界
「昔は残業ありきのような体制でそれによる退職者も多かったように思いますが、ここ最近はだいぶ変わってきています。世の中の風潮などもありますが、残業は悪という意識が社内全体にも広がっており、あまり残業をしていると会社からもチェックされますし周りからも効率の悪い人というイメージになるため、残業自体しづらい雰囲気ができてきています。また一部の部署ではフレックス勤務も実施されており、必要業務時間が日ごとでなく月間で管理できれば良いため、忙しい日は残業しても他の日は午後早めに退社といった調整もでき、プライベートを充実させることができます。(総合職、女性、エイチ・アイ・エス)」
業界別に見る有休消化率推移
10年間で有休消化率が大きく上がった業界は「証券会社、投資ファンド、投資関連」「建築、土木、設備工事」「不動産関連、住宅」「小売(百貨店・専門・CVS・量販店)」で、10年前は2割~3割程度の有休消化率だったのに対し、大きくポイントを上げました。
021年で有休消化率が高かった業界は「通信、ISP、データセンター」「コールセンター、業務請負」「自動車、自動車部品、輸送機器」で、いずれも7割を超えています。特に通信と自動車業界は10年前から6割以上の消化率で、さらにポイントを上げていることがわかります。
証券会社、投資ファンド、投資関連業界
「年休は本当に取りやすい。最低限取得する日数については上司から促され、取ることができる。曜日も自由である。また通常の有休に加え、夏季休暇や、子供のイベント(運動会等)があったときに別で取れる休暇、親の長寿祝い休暇などもある。休んだ分がんばろう!という社風である。体調を崩し何日か休んだこともあるが、柔軟に対応してもらえる。(営業、女性、大和証券)」
建築、土木、設備工事業界
「有給5日取得についてはほぼ強制的に実施される。加えて記念日休暇や他の独自の休暇についても、必ず取得させるよう強い指示が管理部門から現場の幹部クラス宛にきているようで、上司指示で無理やり休暇を取得する場面もある。全体的に休暇を取りやすい環境である。(施工管理、男性、鹿島建設)」
不動産関連、住宅業界
「休暇取得の推奨は、実際に必達目標を各人に課し、定期的に人事部から取得状況が部署長に送られ、未取得の社員に対し部署長からも働きかけをするよう強く求められる。残業についても単に時間短縮を社員に迫るのではなく、生産性を高めるための効率化提案等積極的に受け入れ、よいものは採用・即実践している。(開発、男性、三菱地所)」
小売(百貨店・専門・CVS・量販店)業界
「最近力を入れて取り組んでおり、以前に比べて休みを取得しやすい環境が整いつつある。有給休暇を使い切るまではいかないが、部署ごとに取得率を公表することで、進捗の悪い部署が見える化され、急激に改善されてきた。(営業、男性、ファミリーマート)」自動車、自動車部品、輸送機器業界「業務負荷はそれなりに高いが、年休は取りやすい。自分の担当業務次第で、仕事の負荷が高い時期低い時期がだいたい予想がつくため、それ以外の時期であればプライベートを優先させることも可能。特に年休は組合からのプレッシャーもあり、ほぼ全員年間20日は取得している。(営業部門、女性、トヨタ自動車)」
データの集計について
OpenWorkに投稿された、回答時現職の社員による残業時間342,737件、有休消化率346,506件を対象データとしています。業界別平均は各年50件以上の回答がある業界に限定しています(集計期間:2012年1月~2021年11月)。
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