著者:太田 知希(おおたともき)/株式会社アサイン
大手人材会社にてエージェントとしてキャリアをスタート。大手製造メーカーに対して、採用計画や要件定義の再設計まで一貫して担うコンサルティング活動に従事。株式会社アサインに参画後は、事業企画として自社基幹システムの企画・開発を兼任しつつ、Webサービス企業・SIer・SES・コンサルティングファームなど、幅広い企業様とのコネクションを元にしたエンジニアのキャリア支援に従事。
コンサル 転職が注目される理由と、その落とし穴
「もっと市場価値を上げたい」「将来は裁量のある仕事がしたい」。そう考える若手ビジネスパーソンにとって、コンサルティングファームへの転職は、いまや一種の“王道ルート”となりつつあります。
確かに、コンサルは市場価値の高いスキルや、経営視点を得られる環境として魅力的に映るかもしれません。しかし実際には、コンサル転職時に「コンサルでスキルをつけて将来は起業や事業会社への選択肢も視野にいれたい」と語っていた多くの方が、次のキャリアでもまたコンサルファームを選んでいるという現実があります。
私たちが過去にご支援した転職者のキャリアデータからも、未経験でコンサルに転職した方の7割程度が、当初は“非コンサル”への展望を持っていたにもかかわらず、最も多い次の転職先は「他のコンサルティングファーム」なのです。
なぜこのようなギャップが生まれるのでしょうか?そして、「本当にキャリアを広げたい」と考える人は、どのような視点でコンサルを活用すべきなのでしょうか?
本稿では、「コンサル転職はキャリアを広げる手段になりうるのか?」という問いに対し、キャリアアドバイザーとしての知見や実例をもとに、戦略的なキャリア形成のヒントをお届けします。
目次
第一章:キャリアを広げたい――その動機とコンサルへの期待
第二章:コンサル転職者の“その後”――思い描いた未来とのギャップ
まとめ:コンサル転職で次のキャリアを切り開くには第三章:キャリアを本当に広げるために――戦略的アドバイス
第一章:キャリアを広げたい――その動機とコンサルへの期待
はじめに、なぜ多くの若手がコンサル転職に魅力を感じるのかを見ていきましょう。エージェントとして日々転職希望者と面談を行っていると、以下のような相談が多く寄せられます。
「今の職場は安定しているが、仕事にやりがいが持てない」
「業務に裁量がなく、自分の判断で物事を動かせる環境に憧れている」
「将来に対する漠然とした不安があり、今のうちに市場価値を高めておきたい」
「いずれは起業や事業会社の企画ポジションに就きたい」
こうした悩みや目標を持つ方にとって、コンサルティングファームは「成長」「実力主義」「多様な業界経験」など、魅力的な要素が詰まった場所に映るのも自然なことです。実際に、相談者に今後の方針や興味のある業界を尋ねると、「実はコンサルに興味がある」と口にされる方は非常に多く見受けられます。
コンサルは未経験でもチャレンジしやすく、異業界からの転職も一定数成功しています。また、若いうちに多くの業界・経営層と接する経験ができるため、「汎用的なビジネススキルを得る場所」として認識されている側面もあるでしょう。
とはいえ、この段階で「なんとなく良さそうだから」という理由で飛び込んでしまうと、キャリアの選択を誤るリスクもあります。重要なのは、「コンサルに行ったあと、どうしたいのか?」という戦略的な視点を持つことです。
第二章では、多くの転職希望者が抱く“理想のキャリア”と、実際に進んでいく“現実のキャリア”とのギャップに迫っていきます。
第二章:コンサル転職者の“その後”――思い描いた未来とのギャップ
実際、未経験でコンサルティングファームへの転職を希望される方の体感で7割以上が、“ポストコンサル”として非コンサル領域への展望を描いています。ところが、実際にその後どのようなキャリアを歩んでいるかを見てみると、ある傾向が浮かび上がります。
それは、「他のコンサルティングファームへの再転職」が最も多いという現実です。
過去にご支援した転職者のキャリアデータからも、 「ポストコンサル=事業会社や起業」と想定していた多くの方が、結局は他ファームへとキャリアを重ねている事実が確認されています。なぜ、このようなギャップが生じるのでしょうか。主な要因として、以下のような点が挙げられます。
■転職後すぐに“出口戦略”を考える余裕がない
コンサルの世界は想像以上にハードで、入社後数年間は目の前のプロジェクトで精一杯になることが多く、「その先」を考えるタイミングを失ってしまいます。
■アサインされる案件が希望と異なることもある
キャリアパスに直結する案件に入れるとは限らず、社内のリソースや評価、アピールの仕方によっては、望む領域に行けないケースもあります。
■生活水準の上昇による“身動きの取りづらさ”
コンサル転職後は年収が大幅に上がることも多く、次の転職で収入を維持しようとすると選択肢が狭まる場合があります。
こうした背景から、「最初はコンサルを“通過点”として考えていたけれど、気づけば再びファームへ」という選択に至る人が少なくありません。もちろん、同じ業界内で経験を積むこと自体が悪いわけではありません。むしろ一貫性や専門性を高めることにもつながります。
しかし、「自分は将来どこに向かいたいのか」への解像度が低いままでは、“何となく流される形”でキャリアが積み上がってしまう危険性があるのです。次章では、そうした事態を防ぎ、「キャリアを本当に広げる」ために必要な戦略的な視点とアクションについて掘り下げていきます。
第三章:キャリアを本当に広げるために――戦略的アドバイス
コンサルティングファームでの経験は、キャリアを大きく成長させるポテンシャルを秘めています。しかし、それを「広がりのあるキャリア」に昇華できるかどうかは、入社後の過ごし方と意識次第です。ここでは、エージェントとしての支援経験をもとに、コンサル転職後に“キャリアを広げる人”が実践していた共通点を3つの観点からご紹介します。
①「案件選定」に意図を持つ――目指す未来から逆算せよ
コンサルファームでは、どのプロジェクトにアサインされるかがキャリアの方向性を大きく左右します。そのため、自身がどのような業界・テーマで強みを磨きたいのかを早期に定め、キャリアパスと接続する案件へのアサインを意識的に選ぶ姿勢が重要になります。
たとえば以下のような事例があります:
大手SIerでSEとして会計システムの導入を主導していた方が、総合コンサルファームに転職。当初はERP導入案件に従事していましたが、製造業チームへの配属と並行して、IoTを活用した新規事業立案プロジェクトにも徐々に関与。
「プロジェクトマネジメントスキル」「製造業のバリューチェーン理解」「事業スキーム策定経験」が評価され、最終的には希望していた大手製造業の新規事業企画職へ転職を成功させました。
このように、「社内評価を高める」「興味を周囲に発信し続ける」など、自分で選択肢を切り開く姿勢がキャリアを広げる鍵となります。
②生活水準を安易に上げない――“転職後”を見据えた選択を
コンサル転職により年収が数百万円単位で上がるケースも珍しくありません。しかし、その水準に生活を合わせてしまうと、次のキャリア選択に制約が生まれることになります。たとえば、マネージャー職位で事業会社に転職する場合、年収が300〜500万円下がるオファーも現実的に多く存在します。パートナークラスともなれば、役員候補でもない限り、同水準での転職は極めて困難です。
本当にやりたい仕事、納得できる環境を選ぶ自由を保つためには、経済的自由度を意識し、生活コストを上げすぎないことも重要な戦略です。
③「転職タイミング」を見極める――出口の設計は“今”から始まっている
ポストコンサルのキャリア設計では、「いつ辞めるか」も大きな鍵を握ります。意外かもしれませんが、多くの方がキャリアを見直すきっかけとなっているのが、マネージャーやパートナーへの昇進前後です。
マネージャー昇進前後
- プレイヤーからマネジメントへの役割転換を機に、「自身の専門性の定義」が求められる
- 「若手・ポテンシャル人材」としての市場価値がまだ高く、企業側も柔軟にポジションを用意してくれる
パートナー昇進後
- 経営視点やネットワークを活かし、CxO候補・顧問などハイレイヤーの転職に繋がりやすい
- 転職の目的が「報酬」から「やりがい・影響力」へと変わるケースが多い
いずれにしても、その時になってから考えるのでは遅く、コンサル入社時点で“出口設計”を意識しておくことが重要です。
“広げる”べきはキャリアではなく、自分の意思決定の幅
ここまで見てきたように、コンサル転職は確かに“キャリアを広げる可能性”を持っています。高度な課題解決スキル、スピード感ある成長環境、業界横断の知見――これらは、他業界ではなかなか得難い魅力です。一方で、コンサル業界のプレイヤー拡大と専門領域の細分化が進む中で、「行けばなんとかなる」ではむしろ選択肢を狭めてしまうという現実も、近年徐々に明らかになってきました。
- 望んだはずの「起業」や「事業会社」へ進めず、再びコンサルに戻る人が多い現実
- キャリアの幅を広げるどころか、年収やスキルに縛られて動きづらくなる構造
- 案件選定や生活設計、転職タイミングなど、コンサルでの過ごし方によって未来が大きく変わること
これらはすべて、「どのファームに行くか」よりも「どう使いこなすか」が問われていることを意味しています。
キャリアを広げるとは、“選べる力”を持つこと
「キャリアを広げたい」という言葉は、ともすれば“経験を増やすこと”と同義で語られがちです。ですが本質は、どの環境でも「自分は何を選ぶか」を決められる意思決定力を持つことではないでしょうか。
そのためには
- 目指したい将来像をできるだけ言語化しておくこと
- それに必要な経験を意図的に積みにいくこと
- 報酬やブランドに振り回されず、自分の価値基準で意思決定できること
こうした「自分軸」を持つ姿勢が、キャリアを“広げる”のではなく“深める”ことにもつながります。
まとめ:コンサル転職で次のキャリアを切り開くには
コンサル転職は、あくまでキャリアの選択肢の一つであり、ゴールではありません。むしろ、その後の過ごし方と戦略次第で、未来が大きく変わる分岐点とも言えるでしょう。だからこそ、目先の条件や憧れだけで判断せず、「この経験を、次のキャリアにどうつなげるのか?」という視点を持ち続けてください。
主体的にキャリアをデザインできる人ほど、コンサルでの経験を強力な武器に変えています。本稿が、その第一歩の思考整理に役立てば幸いです。
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