アッパーミドル・プレシニア層の社員。会社の見え方はどう変わるか

働く人が年齢を重ねるにつれて「会社観」の重心はどのように移り変わっていくのか。OpenWorkの「社員クチコミデータ」を元に、アッパーミドル層、プレシニア層の社員による会社の見方の変化を考えます。


まさか、と思う人が多いかもしれませんが、かつては定年の時期といえば55歳でした。55歳で会社を引退し、余生を過ごすというのが一般的であったわけです。しかし、現在では一般に65歳、そしてこれを70歳に引き上げようという議論が政府で進められています。65歳以上のシニアの就業者は男性が33.2%、女性が17.4%(2018年,総務省)と過去最高を毎年更新し続けており、実に就業者の8人に1人が65歳以上のシニアとなっています。


シニアの「働く」を議論するときの論点はたくさんあります。例えば、多くのサラリーマンでは60歳から定年後再雇用に入り、その前後に役職定年がありますが、そうしたタイミングでのアクションや支援の必要性は広く共有されています。業務委託やフリーランスといった新しいシニアの働き方にも注目が集まっています。他方、“シニアになってから”よりも重要だと言われているのが、ミドル期からの「準備」です。自身の経験・キャリアの棚卸しや、学び直し、社外活動など、ミドル期の助走による効果は大きいと指摘されています。


このように働く人の年齢とともに、「働く」も大きく変わりつつある現代社会ですが、当然「良い会社」と感じる要素もシフトしていると考えられます。そこで今回取り上げたいのは、働く人がシニアになっていくにつれて、「会社観」の重心はどのように移り変わっていくのか、会社をどのようにみているのか、というポイントです。今回もOpenWorkの「社員クチコミデータ」を元にして、年齢が上がっていくことによって、ミドル、シニアによる会社の見方がどのように変わっているのかを考えてみましょう。


なお、OpenWorkへの社員クチコミ投稿時企業に「在籍中」と回答した人のデータのみを分析対象としています。


年齢が高いと会社評価も高い

まず概観としては、「年齢が高い方が、所属する会社の評価も高い」という一貫した傾向がみられました。図表1によると、総合評価25~39歳の若手層で2.98であったのが、40~54歳のミドル層では3.06、55~59歳のアッパーミドル層で3.28、60~64歳のプレシニア層では3.39と55歳から急激に上昇していることがわかります。スコアとしての上がり幅が特に大きかったのは、「人材の長期育成」と「人事評価の適正感」でした。ともに若手層とプレシニア層を比較すると0.5ポイント以上上昇しており、プレシニア層が会社を評価し、重要視する項目であるとみられます。


また、その会社で働くことを家族や親しい友人にどの程度勧めることができるかという尺度である会社NPS(ネットプロモータースコア: 0点が最低~10点が最高)についても同様の傾向がみられます。シニアが在籍中の会社のことを好ましく思っている傾向があると言えます。



会社を高く評価している55歳以上は「育成力」「適正感・士気」を重視

それでは、会社を高く評価しているアッパーミドル層、プレシニア層は会社の何をみているのでしょうか。この検討のため、0点~10点でつけられるNPSが8以上の者と 2以下の者を以下の式で比較したのが図表2です。つまり、割合が大きい方が、高い者と低い者の差が大きいことになります。

55~59歳のアッパーミドル層では、「人材の長期育成」と「人事評価の適正感」を中心に重点が置かれており、60歳~64歳のプレシニア層では、上記2つに加えて「20代成長環境」や「社員の士気」にも大きな変化がみられます。つまり、会社のことが好きな引退目前年齢層の従業員は、会社でのこれまでの仕事生活を振り返って、特に育成面や評価の妥当性といったポイントに高得点をつけていることがわかります。中でも育成面の上がり幅は急激であり、高年齢従業員層への育成支援がこの層のコミットメント醸成に極めて大きな効果を与えている可能性を示唆しています。


プレシニアの評価が高い業種・職種は

業種や職種に対するプレシニアの評価を検討したいと思います。会社評価を測るための各項目について、55歳以上の回答者を対象として因子分析を用いることで2つの要素(因子)として整理します。


1つ目は「ギフト因子」です。主に「待遇面の満足度」「人材の長期育成」「人事評価の適正感」といった項目によって構成されます。待遇や育成、評価といった“会社から受け取ることができるもの”が多いということを表すため「ギフト因子」と呼称します。これが高いことは、会社から受け取る待遇や育成面について満足している、ということを示します。


2つ目は「居心地因子」です。主に「風通しの良さ」「社員の相互尊重」といった項目で構成されます。こちらは職場の心地良さを表す項目が中核となっているため「居心地因子」としました。これが高いことは、働いている会社の居心地が良いということを表します。


図表3に業種別にこの2因子を整理しました。この整理においては、3つの発見があります。第一に、マスコミ、コンサルティング、IT・通信・インターネット、不動産・建設といった業種が55~64歳のアッパーミドル層やプレシニア層には高く評価されていることがわかります。こうした業種に共通するのは、一定の専門性が求められる職であるという点です。例えばマスコミにはカメラマンやデザイン、記事のライティングといった仕事が、不動産・建設には現場の施工管理や設計関係、エンジニアといった仕事が存在しています。


第二に、図表3からは各業種が、「居心地重視」か「ギフト重視」なのかも判別できます。点線(近似曲線)より上がどちらかと言えば「居心地」が高く、点線より下であれば「ギフト」が高いです。この見方からは、マスコミは圧倒的に居心地が良いと評価されており、一方で不動産・建設は在籍した際のギフトが多いため評価されています。


第三に、図表の左下に位置している業種は高年齢層から芳しくない評価を受けている業種ですが、残業時間や年間休日数、有給取得率などの労働負荷が高い、という共通点があります。体力的な問題から負荷が高い仕事は適性が低く、会社評価にダイレクトに悪影響を与えると考えられます。若手人材や最新のテクノロジーによって、代替される可能性が高い仕事が多いと解釈することもできます。

最後に職種による違いについて図表4に整理しています。「居心地因子」は営業職系が少々低いのと比べ、経験を重ねるごとに知見が付与されていく仕事である企画職系・バックオフィス系は高くなっています。ただし、業種の違いほどの差は職種間には見られておらず、職種が重要というよりは所属する会社のビジネスモデルや商慣行など、業種に起因する要素が高年齢層従業員の会社観に大きな影響を与えていると考えられます。

今回はアッパーミドル層、プレシニア層という、人生100年時代を迎えた日本で注目される従業員の会社観に迫りました。自社が社員にどんな「ギフト」を与えられるのか、もしくはどうすれば「居心地」を良くできるのか。こういった視点で考えることで、年齢のダイバーシティを高め、社内に既に存在する「古くて新しい戦力」の活用が会社の総合力を高めていくことになるかもしれません。


このレポートの著者:古屋星斗氏プロフィール
大学院(教育社会学)修了後、経済産業省入省。産業人材の育成、クリエイティブビジネス振興、福島の復興支援、成長戦略の策定に携わり、アニメの制作現場から、東北の仮設住宅まで駆け回る。2017年、同省退職。現在は大学院時代からのテーマである、次世代の若者のキャリアづくりや、労働市場の見通しについて、研究者として活動する。非大卒の生徒への対話型キャリア教育を実践する、一般社団法人スクール・トゥ・ワーク代表理事。

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