どんな人が自社を「いいね!」しているのか

かつて「転職」は特殊なキャリア形成だったため、「その会社の入社オススメ度合い」は、広く共有される必要がありませんでした。しかし、転職が一般化するなかで、その会社への入社がオススメできるかどうかは非常に重要な情報となっています。OpenWork社員クチコミデータに集まった、「あなたはこの企業に就職・転職することを親しい友人や家族にどの程度すすめたいと思いますか?」というスコアを分析し、どのような個人が自分の会社をオススメしているのか、について考えたいと思います。


最も変化が大きいのが労働時間・残業時間が減ったことでしょう。大手企業では月60時間など、一定の時間以上の残業に対して例外を許さない姿勢で臨んでいます(もちろん、より厳しい水準で運用している企業も多くあります)し、長時間残業で名高い霞が関でも「月80時間以上の残業は稀になってきた」、という話を聞くことがある(もちろん現行労働法上、平均月80時間を超過する残業はできませんが、国家公務員は労働法の規制の対象外なのです)など、「労働時間」に対する見方は劇的な変化を遂げたと言えます。


こうした変化の影響はすでに数字として表れています。パートタイム労働者を除く無期雇用者の労働時間は2015年の年1996時間から2017年には年1972時間へと減少しています。


本当に自分の好きなものは他人にお勧めしたいというのは人の本能かもしれません。「好事門を出でず悪事千里を行く」と言いますが、現代社会においては、本、飲食店、化粧品、様々なものに対しての“オススメ度合い”が見える化され、好事も悪事もすぐに伝播する世の中となっています。


仕事をする会社についても同じことが言えます。かつての日本的雇用慣行化では転職は特殊なキャリア形成でしたから、「その会社の入社オススメ度合い」は、広く共有される必要がありませんでした(あえて言えば、就職活動をしている後輩にそうした話をするくらいでしょうか)。しかし、転職が一般化するなかで、その会社への入社がオススメできるかは非常に重要な情報となっています。


OpenWorkの社員クチコミデータにはまさに、「あなたはこの企業に就職・転職することを親しい友人や家族にどの程度すすめたいと思いますか?」を問う、NPS(ネットプロモータースコア)という項目があります。今回はこのNPSを分析し、どのような個人が自分の会社をオススメしているのか、について考えたいと思います。

また、月残業時間をOpenWork社員クチコミデータで分析しても同様の傾向がみられています(正規雇用の従業員、現職企業への回答。以下全て同じ対象に対する分析)。


まず、NPSと各種のデータについての相関を見てみましょう。

上の整理からは、どんなデータとNPSが関係しているかを見ることができます。相関係数は0.2を超えていれば一定の相関関係がみられるとされます。今回については、例えば、有給休暇取得率とNPSは一定の正の相関関係がみられると言えるでしょう。つまり、有給休暇取得が多くできるほど、NPSが高くなるという関係があるということです。さて、働き方改革に関する指標として、この有給休暇取得と並んで重要と言われるのは残業時間です。この残業時間については、近年徐々に短縮されていることが知られています。また、新卒採用の際にも社員の平均残業時間を開示する企業が多く、若手も大いに気にする情報です。しかし、NPSとの関係では相関は見られないようです。有給休暇の取得率の高さはいわば「メリハリのついた仕事ができるか」の指標ですから、自社に「いいね!」をしているかどうかについては、単純な残業の多寡というよりは、休みたいときにしっかり休める、そんな職場環境にヒントがあると言えそうです。


自社に長くいる人が、自社が好きなわけではない

では、年収や年齢、そして在籍年数はどのような関係があるでしょうか。

表としてまとめているとおり、年収については一定の相関がみられます。年収が高い回答者の方が、自社に対して「いいね!」できるというのは理解しやすい構造でしょう。なおこの年収については年代が低くなるにつれNPSとの相関係数が低下するという傾向を持っています。様々な理由が考えられますが、その理由の一つとしては年収に対する感度が若手のほうが低いことが挙げられるでしょう。誰もが知っているような大手企業から、ベンチャー企業への転身、そして収入が3割も4割も減少する、という20代のキャリアチェンジは珍しくありません。

他方で、年齢や在籍年数についてはNPSとの関係は見られませんでした。特に在籍年数については、自社に対するロイヤリティを醸成するために「長くいたほうが忠誠心が沸く」はずであり、重要な要素のはずですが、そうではないという結果となっています。同様に年齢についても無関係です。この結果からは「自社に長期的に在籍している社員」が皆、「自社のことが好きで残っているわけではない」ということを意味しています。では、なぜ残っているのでしょうか。待遇でしょうか、人間関係でしょうか。


そして、NPSと強い相関が出たのが総合スコアです。これはOpenWork口コミデータとして会社の項目別に取得しているデータであり、これとNPSに関係があるのは当たり前といえば当たり前ではあります。では、その中身について掘り下げてみてみましょう。


待遇の良さと自社に対する「いいね!」の強い関係

NPSと社員クチコミデータの各項目との関係を以下の表に示しています。

全ての項目について一定の相関がみられ、特に強い相関がみられるのは、黄色着色の各項目になります。最も高いのは待遇の満足度。次は士気や長期育成、風通しの良さといった要素です。年収との関係について先述しましたが、会社から好待遇を得ている社員こそが自社に対して「いいね!」を感じやすい関係があるという、極めて現実的な結果となりました。


自社の何が良いと感じられているのか。キャリアも仕事も多様化する時代に、その答えはある意味で社員の数だけある、そんな時代になってきているのかもしれません。一般的にこれまで言われてきたような、ロイヤリティ、エンゲージメントの源泉は本当に有効なのでしょうか。これまでのイメージや通説にとらわれず、自社の魅力に集中することができる企業こそが次の時代の「人で勝つ企業」になることでしょう。


このレポートの著者:古屋星斗氏プロフィール
大学院(教育社会学)修了後、経済産業省入省。産業人材の育成、クリエイティブビジネス振興、福島の復興支援、成長戦略の策定に携わり、アニメの制作現場から、東北の仮設住宅まで駆け回る。2017年、同省退職。現在は大学院時代からのテーマである、次世代の若者のキャリアづくりや、労働市場の見通しについて、研究者として活動する。非大卒の生徒への対話型キャリア教育を実践する、一般社団法人スクール・トゥ・ワーク代表理事。



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