【業界分析】銀行・証券業界の働き方レポート(vol.75)

変革期を迎える金融業界を現場の声から分析


要旨:

  • 全体的に証券業界の方が銀行業界に比べて評価スコアが高い
  • 「20代成長環境」は証券業界スコア3.5に対し銀行業界スコア2.8と大きな差
  • 「人材の長期育成」は両業界ともスコアが低い

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かつて世界の時価総額ランキング上位を席巻し、「バブル入行組」に代表される大量採用を行っていた銀行は、就職先として「安定」の代名詞でした。しかしながら今では、フィンテックの台頭、AIによる業務代行といった技術革新によって、人の手で行っていた旧来の業務モデルは変革を余儀なくされています。


近年はメガバンクが揃って新卒採用予定人数を減らしており、銀行への就職人気も下がっています。これからの変革期を勝ち抜くためには、優秀な人材を惹きつける働き方や職場環境が重要になってくるでしょう。


今回の調査レポートでは、金融業界の中でも銀行と証券会社に着目し、OpenWorkに投稿された評価スコアと社員クチコミからそれぞれの業界の特徴を分析しました。各業界の課題と強みを社員の声から探ります。


【業界分析】銀行・証券業界の働き方レポート

銀行と証券会社を比較するにあたり、それぞれの業界平均に加え銀行はメガバンク3行、証券会社は国内5大証券と呼ばれる5社をピックアップしました。


全体的に証券業界の方が銀行業界に比べて評価スコアが高くなっていますが、「人材の長期育成」は両業界ともスコアが低くなっており、共通の課題があることがうかがえます。また、「20代成長環境」においては証券業界平均のスコアが3.5であるのに対し銀行業界平均のスコアは2.8と大きく差が付いています。


各業界にどのような特徴があるのか、OpenWorkに集まる各社の社員の声を見ていきます。


銀行 VS 証券:20代成長環境に差。年功序列イメージの実態は

20代成長環境スコアで0.7の差がついた銀行業界(2.8)と証券業界(3.5)。ピックアップした各社の社員クチコミを見ていくと、どちらの業界も資格取得奨励や研修制度が整っており、若手の教育には力を入れていることがわかります。また、最近のクチコミからは、年功序列は多少残しつつも、若手でも裁量大きく働ける環境になってきているようです。なお、20代成長環境スコアが4.4と非常に高い野村證券の社員クチコミを見ると、「数字が人格」といった成果主義の組織風土を挙げる声が多く、厳しいながらも若手のうちから実力を発揮すれば相応の評価を得られる環境が成長実感に繋がっていることがうかがえ、銀行業界と証券業界の差の一因と考えられます。


教育は各社手厚く、若手の裁量も大きくなっている印象

「入社時の2ヶ月の研修から、年に2回ほど集合研修、更には日々動画を視聴してテストをするなど基礎知識から応用知識の習得まで面倒をみてくれます。また、入社後AFPを取得するようカリキュラムが組まれています。他にも希望者には金融知識の講座やコミュニケーションを円滑にとるための講座等、自身の意欲によって幅広い知識が身につけられると思います。(営業、女性、大和証券)」


「残業は多いものの、日系大手証券ならではの大型案件なども多くあり、ジュニアバンカー育成にも力を入れているため、若いうちから大きな責任のある作業・仕事を任せられる。若手でも積極的に重要案件へのジョインをさせるほか、新卒・中途未経験者向けの基礎研修や海外研修などのプログラムも豊富。スキルアップを短期間で行うのには適した職場。(投資銀行部門、男性、SMBC日興証券)」


「若手でも裁量を持たせてくれ、業務や案件を責任持って担当する経験を積めるので、ビジネスマンとしての基礎的なスキルを早期に伸ばせる。研修や専門家を招いての勉強会もあり、専門知識を習得する機会も豊富。(投資銀行部門、男性、みずほ証券)」


「若年次からある程度裁量権のある仕事を任される事がある。お客様に感謝された時はこの上ない達成感を得られる。研修制度に関してはかなり充実しており、会社としても推進しているように思える。海外留学制度や派遣制度、国内での研修も充実している。(営業、男性、三菱UFJモルガン・スタンレー証券)」


「若いうちから海外へ行かせてもらえるチャンスが他メガ対比圧倒的。実際、自分も海外へ、入社3年目で行かせてもらった。非常に勉強になった。きちんとやって、上司にアピールできれば、応報してくれる会社。(部長代理補、女性、三井住友銀行)」


「若手の時からある程度の裁量は任せられている為、数字に対しての責任は大きい。一方で、年功序列な体質の為、若手で成果をあげても、賞与含む待遇にはほとんど反映されない為、目に見える働きがいは少ない。(法人営業、男性、三菱UFJ銀行)」


トップクラスの20代成長環境を持つ野村證券、「数字が人格」の成果主義

「若手の育成に力を入れているため、やる気があれば沢山の事を学び教えてもらうことができる。そして若手であっても実績があればいくらでも伸ばしてもらえる環境です。(営業部門、女性、野村證券)」


「部や部門によるが、年次や役職にかかわらず若手でも重要な意思決定に関わるプロセスに関与し、そこに一定の説得力や有力な根拠などがあれば若手でもオール野村としての判断を担うことができるほど風通しは良い。もちろんそのプロセスには上司や先輩や関係者へ丁寧に根回ししながら進めることが重要になる。(投資銀行、男性、野村證券)」


「絵に描いたような体育会系。数字が人格。働きやすい環境は自分で結果を出して周りを認めさせることでしか作れない。成績も中の中では仕事が出来ない認定を下される。求められているレベルが高くそこにコミットするためにシビアな努力が求められる。(営業、男性、野村證券)」


「独立系証券会社としての誇りを持っており、実際に案件のフローは多く、教育体制もしっかりしていると思う。職業柄、年功序列(経験年数が長い人が重用される)雰囲気ではあるが、やる気があり結果を出せば、若手でも中心的な役割を任される。(投資銀行、男性、野村證券)」


課題は人材の長期育成、各社の取り組みは

銀行・証券業界共にスコアが2.8と低かったのが「人材の長期育成」でした。各社の社員クチコミを見ていくと、金融業界特有の3年程度で異動するジョブローテーション(金融庁の監督指針による、顧客との癒着や不正を防ぐ目的)が専門性を高めにくくしている、それに加え決定経緯が不明瞭な「ブラックボックス人事」によってキャリア開発が難しいといった声が見られました。ジョブローテーションについては金融庁が見直しを始めており、より長期的なキャリアを描きやすくなることが期待されます。また、これからの変革期において、優秀な人材を惹きつけ育てるためにも、公募制度など自分の意思によるキャリア開発を促す組織へと変化が始まっているようです。


キャリア開発を悩ます「ジョブローテーション」と「ブラックボックス人事」

「銀行の人事は完全にブラックボックス。いつどこに異動となり、どうしてそこに異動になったのかは当事者は知ることができない。そんな中キャリアの開発ができるとは到底思わない。(法人営業、女性、大手銀行A)」


「人事異動についてはブラックボックスな面が否めない。現時点で自分がどのように評価されているか直属の上司から伝えられることは滅多になく、それは異動でなんとなくわかる程度。無数の部門、部署が存在しており、配属リスクが存在することも否めない。当初希望していた業務をできている人間はごく少数だろう。また、定期的な異動は部門を跨ぐことも珍しくなく、結局何が強みなのかわからない人材になってしまうこともありえる。(総合職、男性、大手銀行B)」


「一部の部門や雇用形態を除けば、ローテーションが前提となるため、1つの分野で同じことを積み上げるプロフェショナル型のキャリアを長期に築いていくことは比較的評価されにくい。もしくはプロフェショナル型のキャリアを追求する場合には、解雇されるケースも少ないプロフェショナル型契約とした方がリターンは大きい気がする。部長クラスになると、銀行からの出向者が多く、証券プロパーで管理職ポジションを担う人材は、支店等の一部の部署を除けば少ない印象。(投資銀行本部、男性、大手証券会社C)」


キャリアに意思と多様性を。柔軟な組織への変化

「若手に多様なキャリアを経験させるという人事の方針ができ、リテール営業から本社部署への異動など、チャレンジの機会はある。ジョブ公募制度も充実しており、銀行や信託などのグループ会社への希望も可能。同業他社よりはキャリア開発に関しての取り組みは意欲がある。(リテール・事業法人部門、男性、みずほ証券)」


「半年に一度の定期異動に加え、公募による異動制度もある。かなり多くの部署が公募を行い具体的にどのような人材がほしいか記載しているため、今後自分が向かいたい方向において、どのような研鑽を積めば良いかがわかる。公募に関しては昨年度からジョブフォーラムという転職フェアのようなイベントがはじまり、他部署の業務を聞き質問し、実際にその部で働いている人の雰囲気を事前に感じることができる。また、各部署の業務紹介資料もイントラに掲載されており、まったく関わりの無い部署の業務を知ることができる。(本社スタッフ、女性、SMBC日興証券)」


「人員削減の背景もあり、社員に様々なキャリアを描かせようとしている。もちろんそれは、転職もしてどうぞ、というスタンス。人によっては頑張らずにこのまま会社にしがみつこうとするが、意志を持つ人は会社が提供し始めた自己研鑽ツールや制度を上手く利用しようとしている。後者の人間により高い報酬が渡るような制度を人事側は模索している段階であり、その制度が確立されれば個人的には会社を高く評価したい。社会の変化に必死に対応しようとしている会社の一つで、資金力がある分、自己投資を促すツールは今後さらに充実していく気配があり、一介の社員としては大きく期待している。(法人営業、男性、みずほ銀行)」


データの集計について

データの収集方法

「OpenWork」の会社評価レポートへの回答を通じてデータを収集しています。

  • 社員として1年以上在籍した企業の情報であること
  • 500文字以上の自由記述項目と、8つの選択項目に回答いただくこと
  • 月間残業時間(実数)、有休消化率(実数)についても収集

対象データ

OpenWorkに掲載されている各社・業界の評価スコア及び残業時間・有休消化率をまとめています。(2020年8月集計時点の数値となるため、OpenWork各企業ページで掲載している数値と異なる場合があります)

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