プロパー組 VS 中途組 転職は企業の見方にどんな影響を与えるか

「転職組が・・・」、「生え抜きは・・・」といった話題が職場で出ることはあるでしょうか。転職が一般化するなかで、新卒からのプロパー(生え抜き)かそうでないか、といったこと自体が気にならない職場が増えてきたものと思います。筆者の前職(官庁)では、中途入社者自体が数人であり、職員は99%がプロパーでした。こうした組織では入社した時点から一生変わることの無い“入社年次”がモノを言いますが(退職した今でも入省年で上下関係が決定しています)、昨今では中途採用への門戸が狭かった業種、例えば大手銀行などでも中途入社組の支店長級がうまれるなど、転職者と新卒入社からのプロパーが職場に混在することが当たり前になりつつあります。


年間の転職入職率は9.9%(厚生労働省「雇用動向調査」(2016年))であり、また若手では新卒入社ののち、3年以内に職を転じる人は大卒で32.2%(厚生労働省,2014年入社者)となっており、業種や職種による違いはあると思われますが、完全なプロパーだけの職場というのは珍しくなっているのではないでしょうか。


キャリア自律の重要性が問われる中で、同じ企業・同じ職場にいて同じ目標に向かって日々業務を進めている新卒入社者と中途入社者ですが、見ているものは異なっているようです。今回も、Vorkers(現:OpenWork)の社員クチコミデータを用いて検証してみたいと思います。


職場の “やる気” を評価する30・40代の中途入社組

今働いている現職の企業に対してどのような評価をしているのか、Vorkers(現:OpenWork)に集積されたクチコミを分析します(比較を容易なものとするため、分析対象は正社員に限定します。また、2017年に書き込まれたクチコミを対象とします)。


まずは現役世代の中核をなし、職場で中心的な役回りを果たしている、30代・40代について整理しました。ミドル世代は、転職経験のある中途入社者と、そうでない新卒入社者において、いま勤めている企業への見方はどのように違うのでしょうか。

現職の企業に対しての総合評価については大きな差はありませんが、スコア別にみると、「社員の相互尊重」、「人材の長期育成」、「待遇の満足度」、「法令順守意識」といった観点では新卒入社者のほうが評価が高く、一方で、「社員の士気」、「人事評価の適正感」などの項目では中途入社者の方がスコアが高い結果となっています。詳細に見てみましょう。

新卒入社者のスコアが相対的に最も高いのは、「人材の長期育成スコア」でした。また、「社員の相互尊重スコア」も高くなっています。30代・40代ですとプロパー社員として、10年以上同じ企業で勤務しており、社内ネットワークも十分に培われるとともに、今後の自分のキャリアに対しても先輩社員を見てきたなかで見通しも立ってきていることから、こうしたスコアが中途採用者に比べて高いものと考えられます。


一方で、中途入社者は、「社員の士気スコア」や「人事評価の適正感スコア」が新卒入社者に比べて高い傾向があります。転職した経験を持つ中途入社者が、特に同僚の“やる気”を評価していることは、企業をまたいだことによってそうしたポイントへの感受力が高くなっている面がありそうです。具体的な中途入社者の声を紹介したいと思います。


「課題にぶつかってもすぐに相談することができます。他にも優秀な方が多いので、いろいろと教えてもらえるのはいいなと。また、勉強会をかなりの頻度で開催しているので、そちらでキャッチアップしたりもできます」


「自己成長がとてもわかり易い。自己啓発本を読んでいるより実戦できる環境があり、より向上したい方にはチャレンジして欲しい会社です」


「入社を決めた理由は、会社の将来性とメンバーが高い温度で業務に取り組んでいるため」


こうした声が中途入社者の30・40代から出てくるのは、別の会社で働いた経験が、今いる職場の待遇や福利厚生、研修といった目に見える労働環境ではない、目に見えない職場の“やる気”や“雰囲気”を感じ取る力を高めているからかもしれません。


若手中途入社組は “若い人へのやさしさ” を評価

一方で若手層ではどうでしょうか。20代の新卒・中途入社組について整理しました。

こちらも総合評価スコアには大きな差はありません。しかし、個別のスコアには違いが表れています。


新卒入社者では、30・40代と同じく「人材の長期育成」スコアが中途入社者と比べて最も高くなりました。また、「法令順守意識」や「待遇の満足度」も高い傾向にあります。


他方で、中途入社者では、こちらも「人事評価の適正感」、「社員の士気」が高く、また、「20代成長環境」や「風通しの良さ」についても高い結果となっています。30・40代で新卒入社者と比べて高かった“評価の妥当さ”や“同僚のやる気”といった項目に加えて、若いうちの成長環境や風通しの良さといった、いわば“若い人へのやさしさ”を高く評価しているのは興味深い傾向です。


「自由闊達。ブランド力。若手から活躍できる環境。そういった点が魅力」


「裁量が大きく、チャレンジできるのがうれしい」


「上下関係があまりない会社で、会社全体が仕事に対して一生懸命頑張るという姿勢に好感」


といった声が、現職の“若い人へのやさしさ”を高く評価している20代の中途入社者からはあがっています。もしかすると、前職の企業においては裁量権が小さく、上司の決裁をとるために長時間残業をしていた日々だったのかもしれません。ただ、そうした経験が仕事で自分が重要視したい部分の発見に繋がっているとしたらどうでしょうか。転職したのち、現職で“若い人にやさしい”企業を見つけ出すことに繋がっているのであれば、裁量権の小さいなかで苦労して職務にあたった経験も転職というキャリアチェンジを経て貴重な人生経験に昇華したと言えるのではないでしょうか。


現代における転職の真の意義とは何か

人がキャリアを作っていくにあたって、転職という転機は、転勤や異動といった転機と同じもしくはそれ以上の大きな変化です。現代社会において、転職は当たり前になっていますが、その効果は年収の増加や役職の上昇、キャリアパスの変化といったことだけではなく、実は企業への見方が変わるという面があるのかもしれません。


今回のコラムでは、中途入社者と新卒入社者を比べることで、実際に現職の企業に対しての目線が変化していること、つまり若年層においては“若い人へのやさしさ”を高く評価する傾向があり、また、ミドル層においては“職場のやる気”を評価していることが明らかになりました。他方で、若年層・ミドル層双方において“人材の長期育成”は新卒入社者の方が高くなるなど、その企業で長期的にキャリアを作っていく際の情報量には新卒と中途で大きな差があるものと考えられます。転職に際しては、自身よりも上の年齢層の現役社員と面会させてもらうなど、キャリアの長期的な見通しについての情報をしっかり集めたうえで決断することがよさそうです。


ただ、企業に対する総合的な評価自体には、新卒入社者も中途入社者もほぼ変わりはありませんでした。この結果からは、すでに、新卒入社者の方が会社に対する評価が高く、忠誠心が強い、といった時代が終焉したことを示しています。また、個人としては中途入社であってもその会社の居心地を良いと感じる程度は新卒の人と何ら変わらないことを意味します。


今いる会社が最良の選択肢なのか。これはサラリーマン全員の永遠の悩みです。「すまじきものは宮仕え」という有名なセリフが歌舞伎にはありますが、“誰かに仕えること・雇われること”はどんな時代でも苦しいものなのです。しかし、悩みに悩んで、もし新卒で入った企業から職を転じたとしても、プロパーとは異なる視点から企業を評価することができる、ということを忘れないでいただきたいと思います。違う会社を知っていることによって、「企業の評価の視点が変わること」が、実は、給与アップや役職向上といったこと以上の、転職の意義なのかもしれません。


このレポートの著者:古屋星斗氏プロフィール大学院(教育社会学)修了後、経済産業省入省。産業人材の育成、クリエイティブビジネス振興、福島の復興支援、成長戦略の策定に携わり、アニメの制作現場から、東北の仮設住宅まで駆け回る。2017年、同省退職。現在は大学院時代からのテーマである、次世代の若者のキャリアづくりや、労働市場の見通しについて、研究者として活動する。非大卒の生徒への対話型キャリア教育を実践する、一般社団法人スクール・トゥ・ワーク代表理事。

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