OpenWorkデータでみる、働きがい価値観の変化

働き方改革法における労働時間上限ルールや有給休暇の義務取得などが、本年4月より施行されています。日本における労働ルールの抜本的な変化であり、企業の現場では大きな混乱と新しい働き方の模索が始まっています。新しい働き方の模索の中で、働く人々の労働観、企業観といった“価値観”も変化していくことと思います。そして、転職市場の拡大、新卒採用におけるインターンシップの浸透、学び直しの流行など、「働き方改革」を待つまでもなくこの数年で就業者を取り巻く環境は大きく変化していることは周知のとおりです。その環境の変化のなかでどのような影響が出ているのか、今回は、OpenWorkの社員クチコミデータを用いて、近年における就業者の“働きがい価値観”の変化を追っていこうと思います。


その1:「ポジティブ退職」の増加

その会社を退職したが、その会社のことを非常に良く思っている、という就業者について「ポジティブ退職」、「ポジティブ転職」と定義し以前整理をしています(「退職者全体の6%「ポジティブ退職者」からこれからの個人と企業の関係を考える」)。ポジティブ退職率について、経年変化を整理したものが下記の図表です。2015年から2018年にかけて微増傾向にあることがわかります(4.99%→6.12%)。

企業を退職するということは職場環境に嫌気がさした、企業の将来性に不安が、待遇に不満がなどのネガティブな要素が注目されることが多くありました。しかし、近年の転職市場の拡大や「キャリア自律」の必要性の認知が進んだことにより、その意味がかわりつつあるのかもしれません。


「ポジティブ退職」は、個々人が会社主導ではなく個人主導でキャリアを作るキャリア自律の時代に、アルムナイ組織づくりや、業務委託契約などによる外部戦力活用の文脈において重要なキーワードとなっていくことと思います。


その2:新卒に追いつく中途採用者の企業評価

日本は「新卒プロパー主義」、「生え抜き文化」だと言われます。新卒一括採用や人事制度として差のつく昇進タイミングが遅いことなどが、こうした文化を支えていると言われています。OpenWorkのデータからも、全体としては中途採用者の方が新卒採用者よりもスコアが低くなる傾向があり、新卒文化が根付いていることが理解できます。


しかし、この傾向は実は埋まりつつあります。詳細は下記図表に整理しておりますが、実は20歳代においては中途採用者の平均総合スコアが新卒採用者のそれを、2018年回答者において初めて上回りました(中途採用者のスコア÷新卒採用者のスコアの数値で100%以上)。しかし20歳代以外の年齢層においては中途採用者のスコアが大きく下回る状況も続いており、いわば「新卒採用で入社した会社がミスマッチだった場合、大きなビハインドを背負うことになる」状況の改善にはさらに時間がかかるものと推測されます。

その3:企業の短期的な面だけを評価する20代の減少。刹那主義からサステイナブルへ

「若者の安定志向」「出世に無関心な草食系」。今の新入社員や20代についてはこうした表現でそのキャリア観、企業観が評価されることもあります。他方で「石の上にも三年」という伝統的な価値観に反して、短期的な成長環境を求めて企業を選ぶ若手世代も存在しています。OpenWorkデータより、「20代成長環境スコア」と「人材の長期育成スコア」のいずれかに対してのみ高い評価をした回答者の比率を分析すると、経年での比較により大きな差が生まれていることが判明しています(下図表参照)。


実は、企業の短期的な人材育成力(「20代成長環境スコア」)のみを高く評価している回答者が急激に減少しているのです。一方で、「人材の長期育成スコア」のみを高く評価している者の比率は一定です。20代が「20代における成長環境」のみではなく「長期的な育成環境」も同時に求め、評価する傾向が高まっていると言えるでしょう。より厳密に説明しますと、長期的な育成環境からくる働きやすさやその会社で働くことの意義、キャリアの見通し、身につく専門性、といった総合的な“働きがい”を重視していることが理由となっているとみています。多くの20代が求めているのは、「何がなんでも、いまこの瞬間に成長したい」という、刹那的な成長ではなく、20代にもしっかり成長できそしてその後も見通すことができるようなサステイナブルな成長環境であることは、採用や新人育成を行う上で留意する必要があるでしょう。

社会の構造や産業の在り方、企業の意義が大きく変わる中で、人々の働く価値観や“働きがい”にも激しい変化が訪れています。筆者の前職は官庁ですが、後輩が転職相談にひっきりなしにやってきます。彼ら・彼女らが一様に言うことは、「焦り」。自分の市場価値がまわりと比べて上がっていないのではないか、という焦りがあります。新たなキャリアづくりのモデルが確立していないなかで、今回のデータが表すような変化は、その焦りの背景にある大きな変化を浮き彫りにしていると感じています。


このレポートの著者:古屋星斗氏プロフィール大学院(教育社会学)修了後、経済産業省入省。産業人材の育成、クリエイティブビジネス振興、福島の復興支援、成長戦略の策定に携わり、アニメの制作現場から、東北の仮設住宅まで駆け回る。2017年、同省退職。現在は大学院時代からのテーマである、次世代の若者のキャリアづくりや、労働市場の見通しについて、研究者として活動する。非大卒の生徒への対話型キャリア教育を実践する、一般社団法人スクール・トゥ・ワーク代表理事。

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