現在の女性の“働く価値観”を考える

働き方改革のなかで変わりつつある女性のキャリアづくり。今回は、“性別”に注目して、特に現在の女性における“働く価値観”について男性と比較したうえでどのような傾向があるのか、OpenWork社員クチコミデータをもとに考えてみたいと思います。


「働き方改革」が一巡するなかで、多くの就業者が労働時間削減や業務分担の変更などの影響を受けてきました。特に働き方改革が進んだことで、就業のスタイルや休暇取得ルールが大きく変わった、という方々もいらっしゃることでしょう。例えば、年休の時間取得によって急な子どもの保育園の迎えや、有給休暇を使った長期休暇でない時期のリフレッシュ、そして男性が長期の育休取得を行ったという話を聞くことも増えてきました。このような動きの広がりは、単に日本人の“働き方が変わった”ということだけでなく、これまで周辺的な労働力として扱われがちであった、女性の就業スタイルを変えることに一定の良い影響をもたらしてきたと言えるでしょう。


その一方で、業種・企業によっては、育休復帰後のマミートラックの問題や、管理職昇進速度の違い、新卒採用比率の違いなど、まだまだ女性を取り巻く取組の本格化はこれからであるともいわれています。


今回分析をするにあたり、2016年~2018年までの社員クチコミデータを使用し、条件を揃えるために男性・女性ともに正社員として企業に所属し回答した個人に限定することとします。


待遇に不満を抱きやすい一方、人間関係には満足

まず、正規社員全体で見た場合に、女性・男性の間についてどのような傾向差がみられるでしょうか。


整理すると、“待遇の満足度スコア”が低い一方、“社員の相互尊重スコア”や“社員の士気スコア”が高い結果となっています。


そして、「あなたはこの企業に就職・転職することを親しい友人や家族にどの程度すすめたいと思いますか?」という質問に0~10点で答えるNPS(ネットプロモータースコア)は男性より女性のほうが低い傾向となっています。月残業時間や有給休暇については、女性の方が残業時間は短く、有給休暇消化率は高い傾向です。(表1)


このような傾向についてはどのような背景があるのでしょうか。

待遇の満足度スコアについては、同じ正規社員での比較となっていることから、正規-非正規の待遇差の問題については関係がないものとすることができます。正規社員のなかで、例えば冒頭に挙げたような、昇進速度の違いや育成体系の相違などといった背景から差が生まれている可能性があるのではないでしょうか。


大手企業が抱える問題?

待遇の点について、一点紹介したいデータがあります。比較的規模の小さな企業(従業員数1000人未満)と、規模の大きな企業(従業員数1000人以上)との比較です。(表2)

実は、大手企業の方が男女の差は大きいという傾向が見られています(待遇差については、そもそも日本では企業規模が大きい企業のほうが給与水準等が高い傾向が明確にあり、そのために男女ともに平均スコア自体は大手企業の方が高く出ています)。


女性の活躍という観点では、大手企業の方が盛んに広報活動も行っており進んでいるという感覚をお持ちの方も多いと思います。他方で、企業規模が大きくなるほど新卒での女性採用比率は低下する傾向や、特に5000人以上の“超大手企業”では女性の採用比率が30%前後にとどまる(300人未満企業ではおよそ50%程度)など (※)、女性活躍という観点で「大手企業がすすんでいる」という理解は一面的なのかもしれません。


待遇面についても、例えば、配属部署の差、異動速度の差、ロールモデルとなる先輩社員の数の差・・・など大手企業より小規模な企業が優れている可能性のある要素はたくさんあると言えるでしょう。大手企業の方が、「待遇の満足度スコアに男女差がある」という傾向は、こうした状況が存在する可能性を示唆していると言えるでしょう。


20代女性は中堅・中小企業の成長環境を高く評価

また、若手における男女の企業観を浮き彫りにするために、20代で既に退職済みの企業に対する回答について分析しました。以下のような結果となっています。(表3)


表1と比較すると、表1と同様の傾向がみられる(相互尊重スコアや士気スコアが女性の方が高く、待遇スコアが低い)ことに加えて、表1では“20代成長環境スコア”が全体ではほとんど差がなかったのが、表3では女性が高い状況となっていること、“人事評価の適正感スコア”には女性の方が若干低い傾向が生まれていることがわかります。

ちなみに、20代ユーザーの20代成長環境への評価について、興味深いことがあります。実は規模の小さい企業の方が、男女ともに、特に20代の女性からの評価は高い傾向があることです。(表4)

表4からわかるように、女性全体(全年齢)でみると、女性においてはこの差は極めて小さくなっています。20代の女性では、大手企業よりも中堅・中小企業のほうが成長環境を評価されているのです。


最後に、女性の社員クチコミデータの経年変化について図1に整理しました。総合スコアは微増傾向、残業時間は低下傾向にあります。残業時間については、2016年から2018年への2年間で2割程度も改善された傾向が見えるなど、働き方に大きな変化が起こりつつあることがわかります。

残業時間の低下ということに象徴されるような、働き方の大きな変化のなかで、本稿で取り上げたような、“待遇”や“20代成長環境”といったファクターについて、男女差が大きくなりつつあるのかもしれません。整理したとおり、特に大手企業において、その問題は顕在化しつつあります。


日本社会における女性の就業率のM字カーブは解消されましたが、性別というファクターによる就業観・仕事へのスタンスの違いの問題は、まだ解決の端緒についたばかりであることを忘れてはならないでしょう。


(※)リクルートワークス研究所,「大卒求人倍率調査」


このレポートの著者:古屋星斗氏プロフィール
大学院(教育社会学)修了後、経済産業省入省。産業人材の育成、クリエイティブビジネス振興、福島の復興支援、成長戦略の策定に携わり、アニメの制作現場から、東北の仮設住宅まで駆け回る。2017年、同省退職。現在は大学院時代からのテーマである、次世代の若者のキャリアづくりや、労働市場の見通しについて、研究者として活動する。非大卒の生徒への対話型キャリア教育を実践する、一般社団法人スクール・トゥ・ワーク代表理事。

働きがい研究所

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