在籍 5 年以上の社員が選ぶ「ポジティブ定着を実現する企業ランキング」

「早期離職」と「静かな退職」。両方を防ぐために必要な取り組みとは?

要旨:

  • 上位 10 社のうち半数がコンサルティング企業。TOP30 には特許庁が官公庁から唯一ランクイン 
  • 1 位はマッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社、2 位はトレンダーズ、3 位は三井不動産
  • 社員の意欲に応える伴走姿勢と多様なキャリアパスの提供が鍵
  • 介護休暇や男性育休など社員の声を反映した制度の更新姿勢に高評価

近年、人材の流動性が高まり、転職を選択する労働者は増加傾向にあります。一方、多くの企業は慢性的な人手不足に直面しており、新規採用の難易度や採用コストの上昇が続くなか、既存社員の定着率向上は避けて通れない課題となっています。民間調査によると、企業の約7割が「社員の早期離職や定着率の低さに課題を感じている」(※)と回答しています。

今回の調査レポートでは、早期離職を乗り越えた勤続5年以上の現職社員がOpenWorkに投稿した会社評価レポートを対象に、「人材の長期育成」と「社員の士気」の合計スコア(10点満点)を分析。ランクイン企業の社員クチコミをもとに、働く意欲を失い必要最低限の業務だけをこなす「静かな退職」や現状に甘んじて成長を止めてしまった「ぶら下がり社員」とは異なり、高いモチベーションを持って働き続ける社員が多い職場の共通点や、社員の定着に寄与する組織文化・制度の傾向を探ります。

(※)エン・ジャパン「『早期離職』実態調査(2025)」

社員の意欲に応える伴走姿勢と多様なキャリアパスの提供が鍵

勤続5年以上の現職社員が「人材の長期育成」と「社員の士気」を評価する企業を調査した本ランキング。1位にマッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社、2位はマーケティング・PR支援を行うトレンダーズ、3位は三井不動産がランクインしました。

業界別では、上位10社のうち半数にあたる5社をコンサルティング企業が占めました。コンサルティング企業は、成長志向が高い人材が多くさらなるステップアップを求めて比較的短期間で離職するイメージを持たれやすいですが、社員の質が売上や成果に大きく影響するからこそ人材育成に注力している様子が見られました。また、官公庁からは唯一、特許庁がランクインしています。

ランクイン企業のクチコミからは、社員が挑戦したいキャリアや業務を実現するための制度とサポート姿勢の両面が整っていることがうかがえました。昨今、若手を中心に入社時の配属先が希望と大きく異なる「配属ガチャ」を敬遠する傾向が強まっています。今回ランクインした企業からは営業職で入社したらそのまま営業組織の管理職へ進むといった固定的なキャリアパスではなく、社内で別の部署の仕事に挑戦できる「社内兼業」や、希望するポジションに応募できる「公募制度」などを用意し、多様なキャリア形成を可能にする環境が評価されていると考えられます。


ランクイン企業の社員が OpenWork に投稿した、人材育成に関するクチコミ

「自身がこの会社で何をしたいのかをよく問われ、やりたいことを主張し続ければ幅広く手厚く支援を受けることができる。日々の FB から、キャリア形成の相談まで、問題解決が好きな優秀な上司の支援を受けられるのは非常に恵ま れた環境だと思う。(コンサルタント、マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社)」
「部署内のマネジャー同士が人材開発会議を行い、部下全員のキャリア、成長課題について議論を行っている。半期に一度異動希望を出す自己申告制度、社内兼業制度もあり、他の業務に対してチャレンジする機会がある。(営業、リクルートマネジメントソリューションズ)」
「自身のキャリアを再考したときにチャレンジしたい部署があり異動するチャンスをもらうことができた。チャレンジしたい業務に手を挙げたり、希望を上司に伝え続けることで、現在の業務でパフォーマンスしていることを前提にだが、大体は機会を貰える場所である。(バックオフィス、ボストン・コンサルティング・グループ)」
「会社全体でその人のキャリアを全力でサポートする企業体制になっており、様々な研修や公募等、全員が手を挙げることができる。組織外の部署の案内なども年に数回あるので、どこの部署に行ってみたいなどキャリアを考えやすい。(営業、サントリーホールディングス)」
「学会聴講、大学への聴講、留学など、知識を深める機会は様々にある。審査部からの部署異動も容易であり、むしろ推奨されている。審査官とは全く異なる仕事であるばかりか、特許庁以外の官公庁で働くことや、民間企業、大学教授として従事することもあり、自身が望めば、キャリア形成は千差万別。(審査官、特許庁)」


介護休暇や男性育休など社員の声を反映し、進化する柔軟な支援制度も高評価

ライフステージの変化に合わせて働き方を柔軟に調整できる環境づくりも、社員が安心して働き続けるために欠かせない要素です。ランクイン企業のクチコミからは、女性の産休・育休だけでなく、介護休暇や男性の育休取得など、社員のニーズに応える制度が年々充実している様子がうかがえました。

ランクイン企業の社員がOpenWorkに投稿した、働き方に関するクチコミ

「女性社員比率がとても高く、産休・育休からも全員復帰していて、あらゆるライフスタイルの方を内包する会社だなと思います。(企画、トレンダーズ)」
「近年では男性の育休も推奨されており働きやすい環境が整っている。(営業、三井不動産)」
「女性や子育てをしている人も多く、子育てをしているマネージャーもいる。子育てや介護を行っている社員向けの福利厚生のプログラム(休暇やベビーシッターなど)を利用することもできるので、働きやすいと言える。(マーケティング、セールスフォース・ジャパン)」
「(女性の働きやすさについて)意識は非常にしていると思う。規模も小さいので、女性からの発案でどんどんルール化されている。(コンサルタント、ケンブリッジ・テクノロジー・パートナーズ)」
「急な子育てニーズや介護にも対応できるくらいフレキシブルで、周りの理解もとてもあるため、期待されている仕事をやり抜いている限りにおいては、ワークライフバランスがよい会社だと思う。(管理部門、P & Gジャパン)」
「男性社員であっても育休を取得することが推奨されており多くの男性職員が1ヶ月から1年程度の育休を取得している。特に第二子の場合は半年以上の育休を取得される方のほうが多いのではないだろうか。病気休暇の制度もあり、有給がなくなっても数日間風邪で休むなどの場合は医師の診断書なく病気休暇が取得できる。(審査官、特許庁)」


社員の定着施策は、必ずしも大規模な制度設計や潤沢な予算から始める必要はありません。実際に、今回のランキングには従業員数が200名ほどの企業も複数ランクインしました。共通して見られるのは、社員の声を丁寧に受け止め、小さくても地道に制度や環境を育てる姿勢です。クチコミにも「幹部が社員それぞれの強みが最大限活かせる場所を真剣に考えてくれる」といった声が寄せられました。社員のキャリアや人生を真剣に考える姿勢そのものが、社員からの信頼を生み、ポジティブな定着に繋がっていくのではないでしょうか。


【対象データ】

2005年以降に入社した在籍5年以上の現職社員によるOpenWork上の投稿を集計。対象企業数は6,384社。

働きがい研究所

1,700万件以上の社員クチコミと評価スコアを持つOpenWorkが、データから「働きがい」を調査・分析するプロジェクト。質の高いデータが集まるOpenWorkだからこそ見える視点で、様々な切り口による企業ランキングや、専門家による分析レポートなどを発信しています。