Uターン転職は市場価値のディスカウントを生む?地方転職の本当のところ

著者:株式会社アサイン 仲谷 香南(なかや かな)

福島大学卒業後、七十七銀行よりキャリアをスタート。財務アドバイザーとして企業オーナーなどの富裕層を中心に、金融商品の提案営業に従事。その後、『価値観からキャリアを描く』という理念に共感し、株式会社アサインに参画を決意。アサインに参画後は、営業経験者を中心にキャリア支援を行いながら、プレイングマネージャーとしてKPI設計やメンバー育成に従事。スキルマッチの紹介ではなく、一人ひとりの価値観やご志向性を軸にしたキャリアプランの提案を行い、キャリアのパートナーとして入社後のご活躍まで伴走してサポート。


目次

0. はじめに
1. 地方キャリアを正しく知るーーUターン転職のリアルとギャップ
   1.1 業務内容と企業の認知度

   1.2 年収と生活コスト

   1.3 働き方の現実と可能性

2. 未来を描くキャリアプランの立て方

3. Uターン転職はキャリアを諦める選択ではない


0. はじめに

「将来的には地元に戻って働きたい」「自然や家族の近くで暮らしながらも、キャリアはあきらめたくない」。そう考えるビジネスパーソンにとって、Uターンや地方でのキャリア形成はここ数年で一気に現実的な選択肢になってきました。


私自身も同じように「地元で働きながらキャリアを築けるのか」と悩んだ一人です。現在は、アサイン東北支社長として地方でキャリアを歩んでいる経験からも、地方で働くことのリアルな可能性と難しさを肌で感じてきました。


国が取り組んでいる「地方創生移住支援事業」では、2022年度に7,000件を超える移住支援金が交付され、その受給者の多くは30代以下の若年層となっています。暮らしやすさと働きがいを両立させたいという価値観の変化やリモートワークの普及、自治体の移住支援策は追い風となり、「都市部でなければ豊かなキャリアを築けない」という固定観念は少しずつですが薄れつつあります。


一方で、実際に地方への転職を経験した方の中には、「収入が下がった」「仕事内容や希望した働き方と現場の実態が違った」とギャップに悩む声も少なくありません。私たちが支援してきたUターン転職者のキャリアデータを見ても、多くの方が「地元で暮らす」ことを目的に転職活動をした一方で、「思い描いていたキャリア機会とのズレ」に直面し、やむなく都市部での転職に切り替えるケースも一定数存在します。


なぜこのようなギャップが生まれてしまうのか?そして「地方でキャリアを築きたい」と考える人は、どのような視点でキャリアにおける選択をすべきなのか?


本記事では、「Uターン転職はキャリアを広げる手段になりうるのか?」という問いに対し、データや実例を踏まえながら、地方でのキャリア形成を戦略的に考えるためのヒントをお届けします。


1. 地方キャリアを正しく知るーーUターン転職のリアルとギャップ

一般的に転職の理由や要望は、「業務内容・企業の認知度」「年収」「働き方」の3つの観点に整理することができます。


Uターン転職においても出発点は同じですが、重要なのは都市部と単純に「選択肢が少ない」「条件が劣る」と比較するのではなく、地方だからこそ得られる成長機会や生活基盤とのバランスをどう捉えるかという点です。業務内容の幅や企業の存在感には都市部と地方で質的な違いがあり、年収についても単なる金額比較ではなく生活水準を含めた設計が求められます。さらに、働き方も地域ならではの環境がキャリアの持続性に大きく影響する場合があります。


次章では、先に述べた「業務内容・企業の認知度」「年収」「働き方」の3項目毎に、Uターン転職における配慮点を詳細に解説していきます。


1-1 業務内容と企業の認知度

地方での雇用の多くは、大手企業の地方拠点か、地場企業によって支えられています。たとえば私の出身である東北地方では、製造業、建設業、運輸業、小売業といった生活基盤に直結する産業に従事する就業者が多数を占めています。その一方で、都心部に多い情報通信業や専門サービス業などの「先端産業」は地方では規模が小さいのが現状です。


また、地方の中でも地域差があり、福岡や札幌といった地方都市圏では、スタートアップの集積が進み、ベンチャー企業でキャリアを積む選択肢も広がりつつあります。したがって、地方でのキャリアを考える際には、「安定感のある大手企業の地方拠点」や「地元に根ざした地場企業」に加えて、地域によっては「新興ベンチャー」といった企業が選択肢に挙がります。


その中でも代表的なのが「大手企業の地方拠点」と「地場企業」です。「大手企業の地方拠点」は、ブランド力や福利厚生といった安心感があり、転職市場での評価も受けやすい一方で、意思決定や裁量は本社に集中しやすく、業務は限定的になりやすい側面があります。


これに対して地場企業は全国的な知名度こそ乏しくとも、地域内では強い影響力を持ち、若手のうちから経営課題に関わる機会を得やすいのが特徴です。人材リソースが限られる分、一人が担う役割は広く、幅広い実務を経験できるケースも多くあります。ただし、ガバナンスや人事制度は大手ほど整っていないことも多く、評価が属人的になりやすいリスクもあります。


大手拠点は「深く専門性を磨く場」に、地場企業は「広く経験を積む場」になりやすいため、どちらの成長環境が自分に合うのかを見極めることが重要です。


1.2 年収と生活コスト

Uターン転職において多くの方が懸念するのが「収入の低下」です。例として、厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」によれば、東北地方の平均賃金は関東圏に比べて約2割程度低い水準となっています。


ただし、生活コストも同様に下がることを押さえておく必要があります。総務省の調査によれば、仙台市の家賃相場は東京都23区と比較して約30〜40%低く、住居費の固定費差は年間55〜88万円程度になるとの試算もあります。つまり、名目賃金の差を十分に補うことができる場合、必ずしも「収入の低下」は不利とは言えません。重要なのは、「足元の年収」や「提示年収」だけで判断するのではなく、ライフプラン全体を踏まえた年収を基準にした設計です。


一方で、注意すべき点として、地方で一度年収を下げ、再び都市部に戻る際には、「市場価値のディスカウント」が発生するリスクがあります。これは転職市場が、直近の給与水準を基準に評価を行う傾向があるためです。したがって、将来的に再び都市部でのキャリアを視野に入れている場合には、勤務地に左右されないスキルや実績を意識的に積み重ねておくことが重要です。


1.3 働き方の現実と可能性

働き方についてはどうでしょうか。リモートワークの普及により、「都市部の企業に在籍しながら地方に居住する」という形態は事実として増えています。しかし、MS-JAPANのリモートワーク求人の実態調査によると、求人全体に占めるフルリモートの割合は、2024年時点で2.9%にとどまっており、「週1日リモート勤務可」といったようなハイブリッド型が36.5%と、実際にはハイブリッド型が中心となっていることが分かります。


また、国土交通省の「テレワーク人口実態調査」でも、雇用型テレワーカーの約7割が「週1日以上は出社勤務をしている」と報告されており、完全なフルリモートは今や少数派であり、現実的には「部分的リモート勤務」が主流になっていると言えます。


企業側から見ても、社員育成や組織運営の観点では、物理的な距離によるマネジメントの難しさに加え、本社で決定した方針や数値目標が拠点に伝わるまでのタイムラグ、さらには理念や行動規範が“言語的な共有”にとどまり、文化のずれやマネジメント品質のばらつきが生じやすいといった理由から、フルリモートの標準化には慎重な姿勢が見られます。


そのため、地方でリモート勤務を希望する場合は、単に「制度として存在するか」だけでなく、「実際に現場でどの程度活用されているのか」まで確認することが必要不可欠です。


2. 未来を描くキャリアプランの立て方

3つの項目で比較をして分かるように、都市部と地方のキャリア機会には明確に違いがあります。しかし、それは「どちらが優れているか」を示すものではなく、自身の価値観に応じて選ぶべき選択肢の違いに過ぎません。


ここまで整理してきた内容を踏まえると、地方でのキャリアを考える際には「比較のフレームを持つ」ことが重要です。たとえば、東北6県の有効求人倍率は2025年1月時点で 1.23倍 となっており、山形県(1.38倍)、福島県(1.27倍)などは全国平均(1.26倍)に近い、あるいは上回る水準で推移しています。


このように求人倍率などの客観的なデータを参照しつつ、地域ごとの求人数を比較し、「どのポジションでどれだけの可能性があるか」を見積もる必要があります。言い換えれば、「Uターン転職は綿密な設計が必要な選択である一方、十分に現実的な選択肢でもある」というのが本質です。


さらに、現代のキャリア形成において重要なのは「どこにいるか」ではなく「何をするか」です。そのため、「ゆくゆくは地方で働きたい」と考える方は、若いうちから汎用的なスキルを意識的に積み上げ、自身の専門性や付加価値を磨いておくことが、将来地方で働く際に選択肢を広げる鍵となります。


また、「将来的に地元に戻りたい」と思いつつ、今はまだその段階にない場合には、どのような経験やスキルを身に着けておくべきか、そして戻る判断をする可能性があるタイミングがいつなのかを、長期的な視点で設計しておくことが大切です。


勤務地を地方に移すこと自体はそこまで難しくはありませんが、「好きで得意なことを仕事として地元へ戻る」という選択を実現するのは容易ではありません。とはいえ、その難しさこそが働きがいを高め、満足度の高い生活と持続可能なキャリアに繋がっていくのです。


3. Uターン転職はキャリアを諦める選択ではない

Uターン転職という選択は、キャリアを諦めること(=リタイア)ではありません。むしろ私は「働きがい」と「暮らしがい」を両立するための前向きな挑戦であると捉えています。しかし、キャリアは自由で厳しいからこそ、理想のUターン転職の実現には、早いタイミングから自身が大事にしたいものや価値観を深く理解したうえで、正しくキャリアの戦略を練っていくことが求められます。


キャリアは場当たりで直線的に設計できるものではなく、複数の選択や偶然の重なりによって立体的に形づくられていくものです。その過程で生じる迷いや挑戦に伴走し、一番近くで支援できる存在でありたい。仙台支社長として、みなさんの近くで、Uターン転職を含めた最も自分らしいキャリアの実現のサポートをすることが、私がこのテーマに寄せる思いです。


寄稿:株式会社アサイン 仲谷 香南(なかや かな)

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<参考文献>

働きがい研究所

1,700万件以上の社員クチコミと評価スコアを持つOpenWorkが、データから「働きがい」を調査・分析するプロジェクト。質の高いデータが集まるOpenWorkだからこそ見える視点で、様々な切り口による企業ランキングや、専門家による分析レポートなどを発信しています。