年齢相場より高い給与を得ている成功者のクチコミ文章の特徴とは?

1.はじめに

 「労働経済学」の授業の中でほぼ必ず教えられる「人的資本理論」が経済学の枠を超えて実社会に浸透しつつある。経済産業省「人的資本経営の実現にむけた検討会」の報告書である「人材版伊藤レポート2.0」が2020年に出され、2023年3月には有価証券報告書への人的資本情報の開示が義務化された。人への投資は自社だけにとどまらず経済全体の生産性も向上させることから、その貢献が大きい企業ほど資金が集まりやすくなるのであれば、人への投資と生産性向上の好循環が期待される。

 義務化された人的資本情報開示の項目にはダイバーシティやコンプライアンスといったESG投資に関する内容も含まれてはいるが、労働経済学における人的資本とは「労働サービスを生み出す能力、知識、技能などの総体」(大森義明著『労働経済学』、日本評論社、146頁)とされ、ダイバーシティのような内容は「人的資本理論」ではなく労働市場での差別を分析する「使用者差別仮説」で扱われる。そのため「人的資本理論」の教育・研究では、学校教育や企業内訓練による人的資本の高まりとその影響が主な関心事であり、進学の賃金プレミアム(菅・浦川・李,2022)やリ・スキリングの賃金プレミアム(Hara,2019、Yokoyama et al,2019)、企業教育の賃金上昇効果(Hara,2014)などがデータから検証されてきた。概ね高い学歴の獲得は高い賃金に繋がることが確認されているが、自己啓発や企業研修の賃金プレミアムはあったり無かったりと論文によって結果がまちまちである。このような研究分野では、人的資本の水準と生産性や賃金とが強く相関するため、「ミンサー型賃金関数」という賃金(生産性の代理指標)を教育・訓練の水準(または教育・訓練参加イベント)と経験年数によって説明する回帰分析が実施されることが多い。

 このミンサー型賃金関数の分析結果からは、個々の労働者の学歴、年齢、勤続年数など

といった個人属性の情報から、賃金の理論値が計算できる。例えば、35歳の大卒男性で1000名超の大規模メーカーに新卒入社し2010年から13年勤務している、といった情報から相場の給料がいくらなのかが計算できる。研究用データとして受け取っているOpenWorkデータには学歴や勤め先の詳細情報は無いものの、年齢・勤続年・雇用形態・新卒からの所属か否か・基本給(月)といったデータがあるため、簡便なミンサー型賃金関数の分析を行い(※1) 、年齢ごとの基本給(月)の理論値を計算すると以下図1の青実線のような推移を描いた。年功的な伸びを示しているが、40歳を超えたあたりから伸び幅が縮小しており、公的統計による一般的な発見事項と概ね符合する。


図1 正社員の年齢による基本給(月)の相場(理論値)推移:左目盛

と次節で定義する「同年齢内の成功者」の実基本給(月):右目盛

 クチコミ投稿者の中には、給与相場(理論値)よりも明らかに高い基本給(月) (※2)を得ている者もおり、このような労働者は同年齢グループの中でも優秀者・成功者と見なすことが出来る。そこで本レポートでは、実際に得ている基本給(月)が年齢相場よりも明らかに上振れている労働者に着目し、彼等のクチコミ投稿の文章表現の特徴を明らかにしたい。言語化能力は、思考の構造化能力の代理指標であろう。成功者の言語化のポイントを参考にし、それを真似て習慣化することで、キャリア形成や高い給与を実現させることに繋げることができないかと考えている。パートⅡが続くかは分からないが、初回の本レポートでは、投稿された文章の文字数や文数、文と文の因果関係などを示す接続詞数など簡単な数値特徴に着目し、同年齢内の高給層がその他の層と比べてどのような特徴を持つかを確認する。

※1)説明変数は基本給(月)の対数値を、説明変数に年齢、年齢の2乗項、性別ダミー、新卒から在籍ダミー、勤続年数、勤続年数の2乗項、回答年ダミーを用いた最小二乗法による。分析対象データは2015年~2024年のクチコミ投稿者、および退職企業に対するクチコミの場合には2015年~2024年の退職に関するクチコミ投稿者213,472名に限定したデータを用いている。

※2)一般的にミンサー型賃金関数では、同一労働時間での稼得能力を分析対象とする目的から時給換算した「時間当たり賃金」を対数変換し被説明変数に設定する。本稿の分析では労働時間の違いによる給与差を極力排除できると考えられる正社員の「基本給(月)」を被説明変数に用いている。なお、「年収」が上振れている者のほうが一般の成功者のイメージに近いのかもしれないが、「年収」によって同様の分析を行っても2節以降の分析結果の傾向はあまり変わらなかった。


2.同年齢層の中でも明らかに月給が高い者のクチコミ文章の量的特徴

2.1 文章数と文字数の違い

 図1に示された年齢ごとの相場月給の分析では、「実際にもらっている基本給(月)」-「理論値」=「誤差」を求めることが出来る。この「誤差」が上振れている者は同年齢グループ内での成功者と見なすことができよう。そこで、「実際にもらっている基本給(月)」が「理論値」+「誤差の標準偏差」以上の者を「同年齢内の成功者」と定義し、彼らのクチコミ文章の数的特徴を見ていく。なお、「同年齢内の成功者」は正社員を対象としたミンサー型賃金関数の分析対象者213,472のうち、12.6%である。既出の図1のうち、オレンジの棒グラフはこの手続きで定義した「同年齢内の成功者」の実給与の推移である。

早速以下より「同年齢内の成功者」のクチコミ文章の特徴を確認する。表2には、全9項目のクチコミ投稿文章について、文章数と文字数をカウントした集計結果を示した(各項目の提供情報量として扱うため、テキストが欠損の場合はゼロを当てはめている)。9項目合計の数値を見ると、2つのグループで文章数に大きな違いは無いが、文字数は「同年齢内の成功者」が明らかに多くなっており、彼らほど1文あたりの文字数が多いことが分かる。クチコミ投稿の文章数や文字数によって報酬やペナルティが変わるわけでは無い中で、全体的に「同年齢内の成功者」の作業量が多くなっており活動的なのかもしれない。

 ただし項目別にみると、「同年齢内の成功者」のほうが文章や文字数が多い項目と少ない項目で分かれている。特に「組織体制・企業文化」の項目で「同年齢内の成功者」の文章数、文字数が多くなっている。本項目は就職活動や転職活動時に非常に重視される情報項目でありながら、求人票や就職四季報などで把握することが難しく、特に参考にされるクチコミ情報であろう。そのような項目で提供情報が特に豊富になっており、「同年齢内の成功者」ほど、情報を目にするユーザーの立場を意識した投稿行動となっているのではないだろうか。反対に「退職検討理由」については、退職済で退職企業に関する投稿者が両グループとも39%(図表には掲載していない確認事項)と同じでありながら、文章数についてはマイナス0.44、文字数についてはマイナス13.18と明らかに「同年齢内の成功者」で少なくなっている。理由が1つにまとめられているためか「同年齢内の成功者」の文章数は1.17と、ほぼ1文である。「ワーク・ライフ・バランス」についても同様の傾向が見られ、この二つの項目については「同年齢内の成功者」は関心を示していないか、触れたくないのかもしれない。また「退職検討理由」は特に個人的な事情が書かれるため、ユーザーに情報提供する意義を感じていないか、誰が投稿したかバレてしまいやすい立場にいたため秘匿を図っている可能性も考えられる。

 また「退職検討理由」についても1文あたりの文字数は「同年齢内の成功者」のほうが多くなっており、その他全ての項目でも同様である。一般に文章が長くなりすぎることは良くないこととされるが、「同年齢内の成功者」ほど一文の文字数をコンパクトにしている傾向は見られない。主語や目的語を省略せず誤解のリスクを省くような文章になっているのかもしれない。


表1 クチコミ項目へ書き込まれた文章数、文字数の違い

※差について*が付いた箇所はT検定の結果が5%水準でも有意ではなかった項目である。

2.2 接続詞と名詞の数の違い

 次に、Pennebaker et al(2003)や小池陽慈著『一生ものの「発信力」をつける 14歳からの文章術』(笠間書院)でも接続表現の重要性が言及されていることから、接続詞に着目し「同年齢内の成功者」とそれ以外の者の違いについて見ていく。またSnow and Uccelli(2009)では、高度人材ほど動作や事象を名詞化することで概念を整理する傾向にある(例えば、情報を整理する⇒情報整理、懸念されるいろいろな事柄⇒懸念事項)ことから、名詞の出現頻度が高くなることが指摘されている。そのため接続詞に加えて名詞の数についても違いを見ることとする。なおここでは、形態素解析(※3) により接続詞の数、名詞の数を算出した。

集計結果の表2を見ると、接続詞の数や出現頻度(一文当たりの接続詞数)は「同年齢内の成功者」のほうがおおむね多くなっている。「ワーク・ライフ・バランス」や「退職検討理由」、「経営者への提言」では「同年齢内の成功者」のほうがより少ないが、これら項目で確認される文章数は平均で2文を超えないため、接続詞が少ないのは当然であろう。「同年齢内の成功者」の文章内ほど、接続指数やその出現頻度が多いという事は、箇条書きのような情報を列挙するような文体ではなく、複数の文章の関係性や繋がりを明確化した文体になっている可能性がある。

次に名詞の数と観察頻度について見ると、やはり「同年齢内の成功者」の方がほとんどの項目で多くなっている。その中でも「ワーク・ライフ・バランス」や「退職検討理由」では「同年齢内の成功者」ほど少ないことは先ほどと共通した傾向である。これら項目では表1からも「同年齢内の成功者」の文章数や文字数が少ないことが示されており、当該項目へはあまり関心がないのか積極的な書き込みがされない傾向である。また、成功者ほど動作や事象の名詞化がされやすいという理由で名詞数が多いのであれば、一文当たりの文字数が少なくなると思われるが、先の表1の結果はその反対であり、成功者ほど一文当たりの文字数も多い傾向を示している。「退職検討理由」や「ワーク・ライフ・バランス」の項目以外では文章数も多かったことから「同年齢内の成功者」の名詞数が多い背景には、名詞化よりも提供される情報の絶対量が多いということがあるように思われる。ともすれば、単なる饒舌さではなく、情報を削ぎ落とさず「論理的な厳密さ」を保とうとした結果とも解釈できよう。また、複数文の論理的関係性を明確化させる接続詞の数も多いことから、「同年齢内の成功者」のクチコミ文章は、複数情報の関係性にも気を使った文章が作成されるという質への配慮もされていることがうかがえる。

※3)Python言語による分析ツールであるSpyder内でJanomeを使用して日本語の形態素解析を行い、品詞タグに基づいて接続詞と名詞を識別した。


表2 クチコミ項目へ書き込まれた接続詞数、名詞数の違い

※差について*が付いた箇所はT検定の結果が5%水準でも有意ではなかった項目である。

3.成功者はなぜ「退職検討理由」だけクチコミ量が少ないのか?-ポジ・ネガ分析

これまでの分析では「同年齢内の成功者」ほど、クチコミに入力された文字数や文章数などの情報量が多く、文章ごとの対応関係を接続詞で明確にするといった傾向が示された。しかし、退職済のクチコミ投稿者の割合は成功者も成功者以外も同じでありながら「退職検討理由」の項目でのみ、入力された情報量など「同年齢内の成功者」のほうが少なかった。なぜ「退職検討理由」でのみ、「同年齢内の成功者」は積極的に情報を発信しないのか?その理由を探るため、クチコミ内容がポジティブか、ネガティブか、中立かを形態素解析によって判別(※4)し、「ポジティブなクチコミ」と「ネガティブなクチコミ」の構成比を項目別に確認したところ、図1のような全体傾向が示された。

 図1を見ると、投稿者全体の傾向としてどの項目もネガティブな内容のクチコミよりもポジティブな内容のクチコミが多くなっている。ただし項目によって特徴が異なり、「働きがい・成長」や「年収・給与制度」はポジティブな内容が非常に多くなる傾向がある。「退職検討理由」もポジティブ内容が21.84と若干ネガティブ(19.87)を上回るが、ネガティブ内容の割合自体は他の項目のそれより大きくなっている。関係を断った理由という事で、「退職検討理由」は他の項目に比べてネガティブな内容が多くならざるを得ない項目なのであろう。「同年齢内の成功者」ほどネガティブな内容を公開することを避ける気質があるとすると、そのために「退職検討理由」への入力情報量が少なくなっているのかもしれない。


図1 ポジティブな内容のクチコミとネガティブな内容のクチコミの構成比(全体)


 そこで、ポジティブ・ネガティブ内容の項目別割合をグループ別に集計し、図2に示した。「同年齢内の成功者」とそれ以外のグループを比べると、どの項目でも「同年齢内の成功者」ほどポジティブな割合が大きくネガティブな割合が小さくなっている。「退職検討理由」についても傾向は変わらないどころか、ネガティブなクチコミは13.2%にとどまり、他のグループの20.7%を大きく下回っている。やはり、「同年齢内の成功者」はポジティブな内容に着目してクチコミ投稿を行い、ネガティブな投稿を避ける気質があると考えられ、ネガティブな内容が多くならざるを得ない「退職検討理由」項目については、クチコミ投稿が少なくなっていると考えられる。気質と言う解釈をさらに掘り下げるならば、かつての勤務先についてネガティブな発信をすることは自身のキャリアを傷つけることにも繋がると考えられる。または、ネガティブな情報発信をした後にそれが改善されているのであれば、現状を反映しない情報になってしまうことも考えられる。成功者ほどこのようなリスクを考え、「退職検討理由」の項目だけ情報発信量が少なくなった可能性もある。

※4)クチコミに書かれた文章からポジティブワードとネガティブワードの数を抽出し、ポジティブワード数>ネガティブワード数であればポジティブなクチコミと定義し、ポジティブワード数>ネガティブワード数であればネガティブなクチコミと定義した。なお、事前に設定したポジティブワードとネガティブワードの選定はAIによって選出されたものである。


図2 ポジティブ、ネガティブなクチコミのグループ間比較

4.まとめ

本レポートでは、ミンサー型賃金関数の理論値から「年齢相応の相場の基本給(月)」を求め、それよりも明らかに高い基本給(月)を得ている者を「同年齢内の成功者」と見なし、彼らがクチコミ投稿した文章の特徴を検討した。分析結果の傾向から把握される「同年齢内の成功者」のクチコミ文章の特徴は以下のとおりである。

① 文字数や文章数が明らかに多い。入力作業量・提供情報量が多いということであり、評価インセンティブが無くとも自身の時間・労力を多く投入することを厭わない性質、又はそもそも生産性が高い可能性がある。

② 一文当たりの名詞が多いと同時に一文における文字数も多い。コンパクトな文章を作成しているというより情報のヌケ漏れ、省略による誤解を避ける配慮がされている可能性がある。

③ 接続詞の使用が多い。箇条書きのような情報を列挙するようなレポートではなく、複数の文章の関係性や繋がりを明確化したレポートをする傾向がある。

④ 「退職検討理由」については明らかに文章数、文字数、接続詞数、名詞数が少なくなっている。当該項目はネガティブな内容が他項目に比べ多くなる傾向があるため、「同年齢内の成功者」はネガティブな情報発信は忌避している可能性がある。

この度の分析では、以上のような特徴があるからこそ同年齢内で高い給与を得られているのか、高い給与を得られる立場・環境であるからこのような特徴が形づけられたのか、因果関係の方向性は分からない。また、文章の特徴が直接的に給与に影響する重要要因というよりも、文章特徴の背景にある人間的性質が重要である可能性も残される。成功者の文章特徴を真似ることですぐに給与が高まるというものではないのかもしれないが、習慣が人間的性質を形成することも考えられ、このような文章特徴を習慣づけることは推奨してもよいのではないだろうか。明確なインセンティブが無くとも力の入れようや作業分量が他者より少なくならないこと、多くの文章を構築する際には文章ごとの関係性や繋がりを意識し、接続詞(場合によっては接続語)を使用して読者に対してその関係性を明確に示すこと、名詞の省略をせず誤解を避けること、これら特徴の源泉にある読み手のためという利他意識、などを習慣化することで一段上の社会人として差別化できるのかもしれない。


参考文献

Hara, H., 2014, “The impact of firm-provided training on productivity, wages, and transition to regular employment for workers in flexible arrangements”, Journal of The Japanese and International Economies, 34 (2014) pp.336–359.

Hara, H., 2019, “The impact of worker-financed training: Evidence from early- and midcareer workers in Japan”, Journal of The Japanese and International Economies, 51 (2019) 64–75.

Pennebaker,J,W., Mehl,M.R. and Niederhoffer,K,G.(2003)”PSYCHOLOGICAL ASPECTS

OF NATURAL LANGUAGE USE: OurWords, Our Selves”, Annu. Rev. Psychol,

2003. 54: pp.547–77.

Snow,C,E., and Uccelli,P.(2008) “The Challenge of Academic Language”, chapter7, The

Cambridge Handbook of Literacy, pp.112-133.

Yokoyama, I. Kodama, N. Higuchi, Y., 2019. Effects of state-sponsored human capital investment on the selection of training type, Japan & The World Economy, 49 (2019) 40–49. 

菅史彦・浦川邦夫・李文(2022)「日本における大学院賃金プレミアム」、『日本労働研究雑誌』、No.742、pp.64-80.


このレポートの著者:
公立大学法人 高崎経済大学 経済学部経済学科 教授 小林徹氏
株式会社JMR生活総合研究所、独立行政法人労働政策研究・研修機構などを経て2016年4月より高崎経済大学経済学部経済学科講師。24年4月より現職。専門は労働経済学、応用ミクロ計量経済学。

働きがい研究所所長 大澤陽樹 コメント

「年収を上げるには」という求職者の切実な問いに、言語化能力という視点から切り込んだ本研究は示唆に富んでいます。

文字量や接続詞の多さが直ちに年収に繋がるかは、閲覧を急ぐユーザー事情もあり考察の余地がありますが、成功者の「読み手への配慮」という仮説は興味深い視点です。

今後は職種別分析や、成功者が「働きがい・成長」をどう定義しているかの派生研究も面白そうですね。

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