田端信太郎が語る転職のリアルと、「社員クチコミ」の価値 ~ドンピシャの波は、転職を繰り返して掴む!~

すでに終身雇用制度が崩壊しつつある時代とはいえ、「転職して失敗したらどうしよう」と不安になり、今一歩踏み出せない人が多いのも事実。現在では、転職する際の情報源として「社員クチコミ」などさまざまなツールがあるが、一体、それらはどう使いこなせばいいのだろうか。どうすれば、本当に満足度の高い転職が叶うのだろうか。複数回の転職で自分の価値を高め、現在は転職アドバイスやコンサルティングを行う田端信太郎氏とオープンワーク代表取締役社長大澤陽樹の対談から考察する。


転職をやめろという声は、「東京は怖いところだぞ」と同じ

大澤:田端さんは大学時代、インターネットに夢中になり、ご自分でウェブサイトを制作するなどのめり込んでいたそうですね。当時、インターネットを取り巻く環境はどんな感じだったんですか?


田端:僕が大学に入学したのは1994年で、ヤフー株式会社の設立が1996年。当時はまだHTMLの編集ソフトなど全く一般的ではありませんでしたから、ウェブ制作のアルバイトではテキストエディタでHTMLを直に書いていました。


大澤:その頃、僕も同じことをやっていました。


田端:ブログみたいにHTMLを書かなくてもウェブを更新する仕組みが登場したときは、なんて便利で画期的なサービスなんだと驚きました。当時はHTMLを書ける人材が少なかったから、結構いいアルバイトになったんです。音楽サイトで毎週のヒットチャートのランキングを更新するため、テーブルタグの中身を変えるだけ程度で1回5万円とか。作業時間なんて10分くらいですよ。


大澤:そんななかで、NTTデータという、堅いイメージのある企業に新卒で入社されるのですね。

田端:当時は就職氷河期の真っ只中。僕は大学でゼミにも入っていなくて、就職活動をあまり真剣に考えていませんでした。ウェブ制作の業務委託のアルバイトで結構いいお金をもらっていましたから、「まあ、いいや。俺、結構稼いでいるし」って。大卒の初任給は20万円程度じゃないですか、それに比べたら僕の方が2~3倍も稼いでいましたから、「就職するのになんの意味があるんだ」って考えていたんです。


大澤:お金のことだけ考えたら、確かに就職する意味がわからなくなりそうですね。


田端:でも正月に実家へ帰ったとき、親から「お前は就職をしないのか」と言われ、首根っこ掴まれてリクルートスーツを買いに行かされたんです。それで、「せっかくスーツを買ったからちょっと就職活動してみようか」といって始めたら、これが意外とおもしろかったんですよね。


大澤:どんな企業をまわったんですか?

田端:ヤフーに出向する前提でのソフトバンクのインターネット事業部やマイクロソフトです。


大澤:IT系が多かったんですね。


田端:僕としては頭を下げてまで入社させてもらうつもりはなかったから、興味がある会社を受けてみようと思って。面接では好きなことばかり言っていましたね。「おたくの新卒採用のウェブサイトを見せてもらったんですが、ダサくないですか?」とか(笑)


大澤:企業の反響はどうでした?

田端:なかには「きみ、おもしろいね」って言ってくれるところもありました。NTTデータもそんな感じで、よくあるじゃないですか、「そういう生意気で、おもしろい学生を待っていたんだ」っていう企業が。


大澤:NTTデータに入社し、二年弱で退職されるわけですが、当時、入社してすぐに辞める人はいたんですか?


田端:正確にいうと、僕は1年10か月で退職したのですが、同期が400人くらいいるなかで、僕は3番目の退職者でした。他の二人は体調を崩して会社に来られなくなった人たち。課長のところへ行って、「辞めさせてもらえませんか」って明るく言ったのは僕が初めてでした。だから1か月くらい、会社も辞めさせてくれなかったですね。面談ばかりで。


大澤:退職のきっかけはなんだったんですか?


田端:2000年の年末か2001年の正月ごろ、リクルートの求人広告を見つけたのがきっかけです。僕は以前から「リクルートっておもしろい会社だなあ」と思っていたのですが、新卒のときの入社試験では落ちてしまったんですよ。でもずっとリクルートに対する思いがあって、そんななか、日経新聞の日曜版にリクルートの求人広告が出ていたんです。「ネットベンチャー新規事業への投資メンバーを募集します」と。おもしろそうだなってウェブから応募したらすぐ次の日に電話がかかってきて、とんとん拍子に内定まで進みました。

大澤:なぜ、そこまでリクルートの求人に興味を持ったのですか?


田端:僕はもともとインターネットが大好きでした。でも、1995年くらいからどっぷりとネットの業界に浸かっていたので、「ちょっと飽きたから陸にあがろうか」といってNTTデータに入社したら、2000年くらいからネットバブルのビッグウェーブがやってきた。インターネットサービスを扱うことについてはNTTデータでも良かったんですが、やっぱりシステム屋としてのカルチャーが長いから、「BtoCのサービスを作ろうと思ったら、ここにいては一流になれない」って思ったんです。会社としては悪くなかったけれど、リクルートの方がお給料もいいし、内定を断る理由はないかなって思い、転職を決めました。


大澤:それで、リクルートに転職されたんですね。


田端:日本の大企業で課長や部長をやっている人って、ほとんど転職経験がないんですよ。だから彼らが退職を引き止めるのは、ちょうど田舎のおじさんたちが「東京は怖いところだぞ」「新宿や歌舞伎町はとんでもない街だぞ」って言っているようなもの。確かに彼らが言うことは間違っていないけれど、「その前に、あなたは東京へ行ったことがあるんですか」って話。本人は良かれと思って忠告してくれているのだけど、果たしてそれは本当ですか、ってことです。


「インターネットのど真ん中で大暴れしたい」「辞めない方が得」「スーパースターに声をかけられて」など、転機の度に判断軸は違った

大澤:その後、リクルートではR25の創刊に携わります。どのような経緯だったのですか?


田端:僕はインターネットが日本に普及した90年代半ばからこの仕事に携わっていたけれど、最初のネットバブルのビッグウェーブが来たときはNTTデータにいましたから、いってみれば、岸に立って指をくわえながら大きな波がやって来るのを眺めていたようなもの。その後、「ネットの波に乗るぞ」と意気込んでリクルートに入ったけれど、実際は、僕がリクルートで面接試験を受けた頃がネットバブルのピークで、入社したあたりからバブルがどんどん弾けてきたんです。インターネットで新しいことを始めるという風潮はすでに終わりかけていました。

大澤:それで、紙媒体のR25に携わるのですね。


田端:リクルートは「ISIZE」というポータルサイトを運営していましたが、それもあっという間にヤフーに抜かれました。リクルートは就職や住宅など、コンテンツを縦串で展開するのは得意だけど、ポータルサイトみたいに横串で見せるのは苦手なんです。でも、これを紙にしたらいけるんじゃないかって思い、考えついたのがR25です。ヨーロッパでは「メトロ」というフリーマガジンが人気でしたし、日本でも「TOKYO HEADLINE」という無料のタブロイド新聞が配布されていましたから、「紙のポータルサイトをやるなら今ですよ、やらなかったら一生後悔しますよ」って社内の人たちを煽りました。


大澤:R25を立ち上げて、功労者として甘い蜜を吸い続けようと思ったらいつまでも吸えたはずなのに、どうしてリクルートを辞めたのですか?


田端:自分の頭のなかにあったビジネスプランがどんどん形になってくプロセスでは、まるで自分が創造神にでもなったかのように、なんでも思い通りになる気がしていました。でもプロジェクトを始めて半年や一年くらい経つと、良くも悪くも、自分も歯車になっていくのがわかったんです。そんなとき、リクルートの先輩がライブドアにポータル担当の副社長として転職することになり、「田端、お前も来い」って誘ってくれました。そもそもインターネットビジネスをやりたくてリクルートに入ったはずなのに、僕は気づいたら紙媒体をやっていて、「またインターネットのど真ん中で大暴れしたい」という気持ちがあったので転職を決めました。


大澤:その後、2005年に「ライブドア事件」が起きても、ライブドアに残りましたね。

田端:辞めるより、残る方が得じゃないかって思ったからです。あのままライブドアが潰れたとしても、少なくとも僕は悪くない。潰れずに会社が残れば自分の手柄になる。しかも、銀行にはまだ資産もありましたから、株価が暴落しても会社は倒産しない。それならあえて辞めなくても、残った方が得じゃないかって思ったんです。


大澤:2008年4月には執行役員メディア事業部長に就任。でも2010年にはコンデナスト・ジャパンに転職しています。


田端:ライブドアの再生にもなんとかメドがつき、当時はiPadが発売されたばかりで、ウェブサイトとデジタルマガジンの両方に携われるというのが魅力でした。あと、ライブドアでインターネットビジネスはたっぷりやってきたけれど、当時、小学生の頃からのメディア好き人間としては、自分のコンプレックスだったのが「おしゃれ」。「ライフスタイルマガジンを経験したことがない」という負い目があり、どれだけビジネスがうまくいっても、儲かっても、自分が背負っている出版業界内での「文化的なヒエラルキーは高くない」というコンプレックスを拭うことができませんでした。誘われた当時、コンデナスト・ジャパンの社長を務めていたのは、「ブルータス」などの編集長を歴任された斎藤和弘さんで、僕にとってはスーパースターですよ。声をかけていただき、即座に転職を決めました。


「正しいかどうか」よりも「この人を信じてみよう」

大澤:NHN Japanを経てサラリーマンの最後となるのがZOZO。この転職はどうしてですか?


田端:2018年、前澤さんに声をかけてもらったのがきっかけです。久しぶりに「パンクな人だな、おもしろい人だな」って思ったんです。堀江さんも前澤さんも、僕にとっては、リーダーとしての資質がすごい。「まあ、そう言うのもわかるけれど、こう決めたんだからやろうよ」って彼らに言われたら、「そう言うなら従っておこうか」って気持ちになる。そしてしばらくしたあと、「なるほど、そういうことだったのか」って気づかされるんですよ。あのとき、僕には見えていなかったけれど、あの人にはこんな未来が見えていたのか、って。

大澤:それがリーダーとしての資質なのですね。


田端:僕は大抵、仕事では「自分が正しい」って思うタイプなんだけど、「自分を一旦、わきに置いておいて、この人のことを信じてみよう」って思える人は世の中それほど多くない。そういうリーダーと働く経験はとても貴重だし、一緒に働くことで自分の枠も広がっていきますよね。


1回目の転職でドンピシャの波を見つけるのは難しい

大澤:田端さんの転職履歴を聞いていると、ひとつひとつにストーリーがありますね。転職を経て、田端さんの市場価値はものすごく上がっているんじゃないですか?


田端:世界の誰もが知っている名だたる有名企業ってあるじゃないですか。そんなふうに、世間的に評価が定まっている会社で上へのぼりつめていくのはとても大変だと思います。もともと地頭がいい人が血の滲むような努力をして、さらに幸運もあって、やっとチャンスをつかめるって感じ。でも、僕はもっと効率良くやりたい。そう考えると、名だたる有名企業よりもこれから伸びそうな企業の方が、チャンスがあるし、いってみれば僕にとって良い転職って、どさくさに紛れて安値で株を買うようなものだと思うんですよ。


大澤:転職は、まだ評価されていない企業の株を買うことと同じ、ということですか?


田端:そうです。ただし、正しいタイミングで株を買う、つまり、的確に転職のタイミングを見定めるのはとても困難。社内でおもしろいことが起きていても、それが会社の外に漏れて、「この会社おもしろそうだよ」って世間に知られるまでにタイムラグがあるからです。感覚的にいうと1年、場合によっては2年くらい必要なこともある。でもそれは入社して初めて気づくことなので、絶好の機会を捉えて転職するのはとても難しいんです。

大澤:タイミングが合っていたかどうかは、入ってみないとわからない。


田端:僕の転職の歴史は、カッコよくいえばサーフィンのようなもので、NTTデータを辞めてリクルートに入社したのは、すでに最初の2000年ごろのネットバブルの波がピークに達したあとでした。そして、ライブドアに入社したのも、ちょっとタイミングが遅かった。そのあとコンデナスト・ジャパンに入社したときは、iPadが登場してビッグウェーブが来るかと思ったら、小波しか来なかった。まあ、ときにはこんなはずし方もあります(笑)


大澤:その後、ライブドアを買収したNHN Japanに入社したときは、どうだったんですか?


田端:転職4回目にして、ようやくドンピシャなタイミングで波に乗れたという感じでした。ライブドア時代のツテなどもあり、たまに飲み会とかに呼んでもらって、転職前にいろいろな情報を教えてもらっていたから、タイミングを見定めることができたんだと思います。


大澤:身内から得た情報で波を見つけたのですね。


田端:1回目の転職でドンピシャの波を見つけるなんて、そもそも無理。タイミングが早すぎたり、遅すぎたりするのは当然ですし、「絶対に、一度でドンピシャの波を見つけなければならない」っていう必要もないですから。いってみれば、株の売買の練習みたいなものですよ。


大澤:転職しようかしないかで迷うくらいなら、何回かチャレンジして波を見つけに行った方がいいっていうことですね。

田端:僕はそう思います。なかには変な転職をして、キャリアがダメになる人もいますが、一度転職を失敗したくらいで死ぬことはない。あとは比較の問題だと思います。「その会社に居続けた三年後」と「転職した三年後」とどっちがいいか想像して、リスクを考えることも大事です。


大澤:「残ったとき」と「転職したとき」、どちらにもメリットとリスクはありますね。


田端:ニュートラルに将来を想像するのって難しいんです。でも現実的に、転職した場合の可能性に目をふさいでいるせいで、もったいない人生を生きている人があまりにも多いと思います。


大澤:どうやったらその可能性に気づくことができるのでしょうか?


田端:ライブドア社員だった僕のように、いきなり会社に東京地検がやってくるかもしれないし、社長が逮捕されるかもしれないし、突然ネットバブルがはじけるかもしれない(笑)。「世の中ってそういうもの」と思っておくといいかもしれないですね。


転職するつもりはなくても、アンテナを立てて社員クチコミを見る

大澤:田端さんの場合、転職はほとんどヘッドハンティングだったそうですが、転職の際にはどうやって社員クチコミを利用したら良いと思いますか?


田端:転職をするつもりがないとしても、3社か4社くらい、「この人の下で働いてみたい」「このポジションだったら働いてみたい」というところを、ぼんやり考えておくといいですね。その際、クチコミはとても役立つと思います。

大澤:転職するつもりがないとしても、考えておいた方がいいのはなぜ?


田端:プロ野球選手の場合、たとえライバルチームであったとしても「最近あのチーム、いいプレーしているよね」と感じることってあると思うんですよ。それと同じで、転職しないとしても、勢いを感じる会社や伸びている会社、サービスの評判がいい会社などにアンテナを立てておくことは、いざというときにとても大事だと思います。


大澤:そういう会社を見つけるときに社員クチコミが役に立つと。


田端:ツイッターでの投稿や業界紙での発言などを見てみれば、同業者なら、その人がイケている人かどうかわかりますよね。「ライバル企業だけど、敵ながらあっぱれ」って尊敬したり、「この人、おもしろいな」って感じたりする人もいるでしょう。ただし、メディアで華々しくかっこいいことばかり言っている人を信じてしまうのは、情弱(笑)。スタートアップやベンチャーって、脚光を浴びているスター経営者の下で、実は現場の社員はとても苦労をしていることも多いので、そういう内情を知るためにもOpenWorkなどを利用して、多面的に情報を収集するのが良いと思います。


大澤:OpenWorkなら部署ごとにもクチコミを見られますしね。


田端:僕は株を買うときにもOpenWorkで社員からのクチコミを見ていますよ。

大澤:そうなんですよ。結構、会社の内情は株価の動向とも相関関係があるんです。


田端:それは正しいと思います。変なIR情報を見るよりもよほど当てになるでしょうね。あと転職の際にはクチコミを利用するほか、本当に入りたい会社なら知り合いのツテなどを頼って、直接、人に「当たり」に行くこともおすすめです。


大澤:どういう人に「当たる」のですか?


田端:一番役立つのは、直近辞めた人。そういう人の話をリアルに聞くと、会社の実情を把握するのに役立ちます。


ゲームオーバーになるような大失敗をせずに、挑戦する

大澤:どれだけ準備をしても失敗を恐れてしまって、結局、転職に踏み出せない人もいると思います。田端さんが失敗を恐れたことはありますか?


田端:僕、自分の子どもにもよく言うんですけど、「成功と失敗は対義語」という考えは間違いだと思うんですよ。うちの子どもは飛行機が大好きなんですけど、大昔って、空を飛ぼうとする人が崖の上から羽をつけてジャンプして、死にかけていたじゃないですか。でもライト兄弟は最初に作った飛行機をどこで飛ばしたかというと、下が砂地の草っ原なんです。この意味が、わかりますか?1回目から成功するなんてありえない、失敗するたびに、最初から作り直しになるのは大変だから、飛行機が壊れないように柔らかいところで飛行を繰り返したんですね。そして、ようやく成功したんです。成功と失敗はちょうどオセロみたいなもので、最後の1回が成功したらそれまでの失敗はみんな失敗じゃなくなるんですよ。


大澤:エジソンも同じことを言っていますね、失敗と捉えるな、と。


田端:失敗は成功の一部なんですよ。みんな、「最初から絶対に成功してやろう」って意気込むけれど、そんなこと、絶対にありえませんから。


大澤:たとえ1回目が満足いかなかったとしても、それを糧にして次回成功すれば良い、ということですね。


田端:大切なのは1回目に、ゲームオーバーになるような致命傷を負わないこと。いきなり崖から飛ぼうとすれば死ぬに決まっているんですから。投資家のテスタさんも「負けなければおのずと勝ちになる」と言っているじゃないですか。損切りっていうとみんな「損した」って言うけれど違うんです。正しい損切りは利食いの一部なんですよ。


大澤:ゲームオーバーになるような大失敗をするな、挑戦しろ、と。

田端:僕のところによく、転職しようか悩んでいる人が相談に来るんですけど、そういうときは、「内定が出て、転職活動が終わってから悩め。とりあえず受けろ」って言います。そう言うと、大抵の人が「そんなこと、失礼じゃないですか。内定を断って業界のブラックリストに載ったらどうするんですか」って言いますが、ブラックリストなんてありえないでしょう。もちろん安易な転職はすべきではないけれど、面接を受けて、内定をもらってから悩んでも遅くはないと思うんです。


大澤:入社して「こんなはずじゃなかった」って思うことがあるから、転職活動をする前に悩んでしまうんですよね。


田端:転職の失敗って、「上司が思っていたのと違う」「仕事が思っていたのと違う」「(外部要因で)事業自体がなくなる」の3パターンがあると思うんです。でも、このうち2つは入社前に解消できます。一つ目の「上司が思っていたのと違う」というのは、面接などで「直接の上司は誰ですか」って尋ねればいいんです。そしてその人が信頼できそうか、尊敬できそうか確認する。ウェブサイトで名前を検索していっぱい記事が出てくるような、業界のなかでリスペクトされている人なら、なおいいですよね。


大澤:確かに。事前に解消できるもう一つの失敗はなんですか?


田端:二つ目の「仕事が思っていたのと違う」というのも入社前に解消できます。たとえば実際にあったケースで、入社を迷っている企業の社員に、「Slackを見せてください」と頼んでいた人もいましたよ。機密保持の契約を結んでもいいですから!と迫ったそうです。


大澤:Slackで、社内でどんなチャットが行われているかを見せてもらえば大体、仕事の内容や流れは想像つきますからね。


田端:三つ目の「業界自体がなくなる」というのはどうしようもないかもしれないけれど、最初の転職は「いきなり結婚」じゃなくて、「まず付き合ってみる」というのと同じだと思うんですよ。まずは副業でパートタイムで関わるのでもいい。そうすることで「思っていたのと違った」というリスクをある程度、消すことができるでしょう。


前向きに行動するためにこそ、社員クチコミが使える

大澤:なるほど。これから転職をしようか考えている人にとって、とても勇気が出るアドバイスですね。ところで、田端さんは「会社に依存しない生き方」をテーマに、少人数での実戦型プログラムとして「ブートキャンプ」を主催していますが、実際にどんなことをしているんですか?


田端:具体的にいうと、そもそものキャリアの状態診断、強みの棚卸、転職先として想定される業界や職種、職務経歴書でのアピールポイントから、面接に臨む気構え、年収交渉のマナーなど、もっと多くの収入を得て、やりがいのあるキャリアを自由に構築していくためのサポートをする短期集中プログラム。すべて1:1で行います。

大澤:参加者はどんな悩みを持っている人が多いのですか?


田端:意外と大手企業の人も多いんですよ。たとえば以前、こんな男性がいました。ある電力会社で10年以上、原発に関わる仕事をしている人で、「原発業界ってこの先、お先真っ暗だと思うんです」と言うんです。もう新しい原発が日本にできることはないだろうし、将来性はない、と。30代半ばで、この先30年もこの会社にいていいんだろうかって悩んでいました。


大澤:それに対し、なんてアドバイスされたんですか?


田端:いま、エネルギー業界は再生可能エネルギーとか風力とか、とても盛り上がっていますよね。業界再編の動きも進んでいて、発電所がM&Aするときは、必ず監査法人の人が現地を視察に来ます。でも大抵の場合、原発やエネルギーに関する知識がない人がさらっと見て終わりということが多いはず。でももし彼みたいな人が見に来たら細かいところまで確認することができるでしょう。彼は原発の規制ルールを省庁とやりとりするため、アメリカの原発も視察に行っていましたし、グローバルスタンダードに通じている。なにより、10年以上原発に携わってきた経験もある。それはとても価値のあることですし、もし自分がコンサル会社でエネルギー業界担当のパートナーだったら、「こいつ面白いな!」って絶対に彼を採用したいと思うはずです。


大澤:彼には、自分では気づいていない価値があるということですね。

田端:特に最近は世の中の流れも変わりつつあり、「原発再稼働待ったなし」と言われたり、EUでは「原子力は持続可能なグリーンエネルギーだ」と言われたりしているじゃないですか。それに伴い、彼の会社のムードも変わってきたみたいで、彼はこの10年間、ずっと自分の仕事を卑下してきたけれど、「このまま居続けてもいいかも…」と思えるようになってきたそうです。僕は、「今なら、転職するかどうかニュートラルに決められるんじゃないですか」と言いました。今の会社に残ってもいいし、おもしろそうなところがあるなら転職してもいい。そういう状況では一番ニュートラルな判断ができますよね。


大澤:ブートキャンプでは、田端さんにめちゃくちゃ詰められるかと思いきや、自分の価値を深堀してくれるんですね。


田端:あと、普通の人材紹介会社とブートキャンプが違うのは、転職を無理にさせない、ということ。僕は転職を6回もしていて、すれっからしなんで(笑)。一度も転職したことがない人に「転職は、やめておいたほうがいいよ」と言われても説得力がないけれど、僕に、あなたの場合は、今すぐには転職しないほうがいい!と言われたら「確かにそうかも」って思えるじゃないですか。


大澤:転職するしないに関わらず、本人が満足しているかどうかが大事ですね。


田端:近年、日本人の給料が上がらなかったり、日本の企業が伸びなかったりするのは、雇用に流動性がないから。おもしろい仕事と人材が適材適所でマッチングされていないし、みんな、そのマッチングを一度で完璧にしようとする。せっかくOpenWorkやSNSなど、いろいろなツールがあるのだから、それらを駆使して気になる会社を訪ねたり、人に会いに行ったりしてほしい。自分に向いている仕事を見つけるのって、素晴らしい結婚相手と巡り会えるくらい、人生の幸福度に影響するし、それは決してお金では買えないことだと思うんです。いろいろなツールを使いながら、ぜひ前向きに行動してほしい。それこそ、社員クチコミの価値だと思います。

働きがい研究所

1,700万件以上の社員クチコミと評価スコアを持つOpenWorkが、データから「働きがい」を調査・分析するプロジェクト。質の高いデータが集まるOpenWorkだからこそ見える視点で、様々な切り口による企業ランキングや、専門家による分析レポートなどを発信しています。