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いまだ続く「3年3割」
かつて「七・五・三」と言われた最終学歴別の就職3年以内の退職率。中卒就職者が7割、高卒就職者が5割、そして大卒就職者が3割、3年以内に初職を退職するということを表す言葉です。景況感が大きく変わっても、この割合は大卒では3割前後と、ほとんど変わっていません。
3年以内で辞めてしまう理由としては、仕事のイメージと実情のミスマッチが挙げられます。日本では、中長期的な職業体験を経ずに入職するため、就活時に想像していた仕事の内容と、仕事の実態が大きく乖離した場合、そのギャップに耐え切れなくなって離職してしまうのです。現状の新卒一括採用による入職システムがもたらす副作用といえ、現在ではいわゆる「第二新卒」マーケットが形成されることで早期離職者の受け皿となっています。
さて、今回はこの3年以内離職者について、仕事とのどういったギャップによって辞めていくのかを分析した上で、この数年間の興味深い変化について紹介したいと思います。
“修羅場”だけでなく、“目的地”を見せられているか
2015年から2017年のVorkers(現:OpenWork)社員クチコミデータより、新卒後在籍期間が3年以内の者を抽出し、退職者と全体を比較したのが次の図表です。
右欄に退職者と全体の数値を比較した比率を掲載しています。総合評価スコアでは、退職者が全体平均よりも2.4%程度低くなっています。この総合評価スコアの比率よりも高いスコア(つまり、退職者の数字が比較的高いスコア)を赤字、低いスコア(退職者の数字が特に低いスコア)を青字としました。
項目別にみると、最も高いのは人事評価の適正感。こちらの項目だけは、退職者の方が高いスコアになっています。会社から自身への人事評価に対して何らかの不満があるのは誰しもですが、その不満度合いは、実は退職者の方が低いという結果になっています。
最も低いのは、法令順守意識スコア。こちらは分散が大きいため、二極化している傾向にあります。つまり、一部の強烈なブラック企業が存在し、全体の平均を押し下げています。そうした会社以外は高い水準にありますが、退職者において一定数が法令すら守れないような会社に見切りをつけた、という者が存在することは間違いありません。
また、目を引くのは、20代成長環境スコアと人材の長期育成スコアです。この二つは、若年層に対しては、「いま成長できるか」と「将来のキャリアパスがみえるか」を聞く項目になっていますが、早期退職者は会社を「いま成長はできる」が、「将来がみえない」と感じている傾向が強いと言えます。“修羅場経験”と言われるような、厳しい職場での成長環境だけでは若年層の定着には直結せず、“目的地”を見せることが重要だと示唆しています。目的地が見えることで、はじめて厳しい道のりを乗り越えることができるのです。
残業時間、有給休暇消化率では当然と言えるかもしれませんが、退職者の方が残業は長く、有給休暇は消化できていません。特に退職者のうち、15%以上が月の残業時間が過労死水準である80時間、さらに8.5%が100時間を超えていると回答しており、早期離職の大きな原因になっている可能性があります。
小企業と超大企業の奇妙な共通点
さて、企業の規模でみると、早期離職率は規模が小さな企業の方が高いことが知られています。
こうした状況は年収水準などの待遇面への不満が転職の意思決定に際して顕在化しやすく、中小企業の方が大企業よりも年収水準が低い、といった背景を持つ問題と考えられます。他方、その内実については変化が生じているようです。
早期離職者の総合評価スコアを企業規模別で比べてみましょう。小さい会社の方が低く、大きくなるにつれて上がっていく傾向は2015年、2017年とで変わりませんが、2015年から2017年の変化でみると、99人以下の小さな企業の上昇量が、5000人以上の超大企業と並び高いことがわかります。
“2017年時点のスコア”を横軸に、“2015年→2017年のスコア増進率”を縦軸にし、企業規模別に整理したのが下の図表です。全体平均よりも上側にあるのは、99人以下の小さな企業と、5000人以上の超大企業のみとなっています。この両者は2017年時点のスコアは両極端ですが、スコアの増進度合いでは共通していることがわかります。小さな会社においては、仕事の進め方や裁量権、上下関係も含めて大きな会社とは異なる部分が多数存在します。そうした“異なる部分”は決して“劣った部分”ではありません。縦割りにならず、機動力を求められる仕事の進め方は、その後のキャリアに対して肯定的な影響を与えることでしょう。このデータにあるような近年の小さな企業のスコア増進は、景況感の良いなかで大企業をあえて選ばず、自分から選択的にベンチャー企業等の小さな企業に就職した個人の動向が背景にあると推察されます。
以前のこのコラムでも取り上げましたが(※)、企業がとても好きだが退職していく個人、「ポジティブ退職者」が増えゆく社会のなかで、特に小さな企業と超大企業ではそうした「ポジティブ退職」をする若年層が特に増えていく可能性があります。早期離職者は大卒だけに絞っても毎年3割存在しています。「ポジティブ退職」の早期離職者の増加は、個人と会社の関係を大きく変えることでしょう。
※退職者全体の6%「ポジティブ退職者」からこれからの個人と企業の関係を考える,
このレポートの著者:古屋星斗氏プロフィール大学院(教育社会学)修了後、経済産業省入省。産業人材の育成、クリエイティブビジネス振興、福島の復興支援、成長戦略の策定に携わり、アニメの制作現場から、東北の仮設住宅まで駆け回る。2017年、同省退職。現在は大学院時代からのテーマである、次世代の若者のキャリアづくりや、労働市場の見通しについて、研究者として活動する。非大卒の生徒への対話型キャリア教育を実践する、一般社団法人スクール・トゥ・ワーク代表理事。
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